人情温度計 -台湾ポスドク紀行-

ポストコロナの台湾就職録

はじめに

はじめましての方、はじめまして。物理学の実験でポスドクをしている者です。

ポスドクというのはポスト・ドクトラル・ケンキューインの略で、博士号を取った後に三年とかの任期であちこちの研究室を転々とする人のことです。日本の理系の研究者は大体これです。

任期が切れると次の保証もなく放り出されるので、とにかく公募を探して行けるところに飛びつくのがお決まりなんですね。

わたしが飛びついたのは台湾の大学です。

時に、コロナ禍の2020年秋でした。

 

このブログでは、厳戒検疫態勢下の台湾に渡るまでの手続きと、渡った後のふらふらするやつを、主に写真で紹介してゆきたいと思います。

似たような情報は既にいろいろ発信されているのですが、何か新規性があるとすれば、

  • 日本企業からの赴任ではなく、個人での海外就職である
  • 就職先でやることが宇宙物理学実験である
  • 現実の人間にはあまり興味がない人のために、小説版がある(どうして?)

と、いうことになるでしょうか。

 

台湾の某大学の某研究室に応募し、書類とオンライン面接を経て内定が出たのが2020年の11月。具体的な手続きは博士号取得内定の出る2021年2月からでした。

したがってこのブログも、2021年2月の、大学院の修了見込証明書を台湾の領事館、すなわち台北駐日経済文化代表処に持ち込むところから始まります。

 

【小説版】

kakuyomu.jp

【ブログもくじ】

学歴書類認証~労働許可書~停留ビザ~PCR検査

防疫ホテルの予約~渡航~防疫ホテルに収容

防疫ホテル0日目~2日目

防疫ホテル3日目~6日目

防疫ホテル7日目~10日目

防疫ホテル11日目~14日目

(次に書く記事)自主隔離期間

(次の次に書く記事)統一番号のこと

(次の次の次に書く記事)火鍋のこと

 

防疫ホテル11日目~14日目

防疫隔離期間の終わりが近づいてきました。

 

11日目

朝食です。これは何でしょう。どうやらこれは蛋餅(dàn bǐng、ㄉㄢˋ ㄅㄧㄥˇ)といって、もちもちしたクレープ生地のようなものに玉子やハムを巻いて焼いてあるんですね。なかなかおいしいです。

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11日目の朝食。蛋餅、トマト、きゅうり、オレンジ、キャベツ、バナナ、りんごジュース

 

午前中に、勤務先の人が新しい実験装置のアイデアを思いついたという話を持ちかけてきたので、それについて「計算してみるとやっぱりうまくいかないんじゃないか」というような話をしていました。上司であっても物理的に懸念のあるところは遠慮なく指摘していいのが物理学のいいところですが*1、これはもしかすると物理の中でも浮世離れした分野だけの特権なのかもしれません。

 

昼食も十二時前に来ます。

11日目の昼食。米、魚の照り焼き、生姜の糖蜜和え、きくらげの酢の物、筍の炒め物、キャベツの炒め物、玉子ととうもろこしのスープ

11日目の昼食。米、魚の照り焼き、生姜の糖蜜和え、きくらげの酢の物、筍の炒め物、キャベツの炒め物、玉子ととうもろこしのスープ

昼食の後に、デザートとしてお汁粉が来ました。言うなればこれは「こしあん」で、わたしはつぶあんのお汁粉の方が好きなのですが、まあいいとしましょう。白玉などの具はなく、あまり甘くもありません。

11日目の昼食の後のデザート。お汁粉

11日目の昼食の後のデザート。お汁粉

今日も今日とて、UberEatsで豆花を注文します。「豆花荘」の総合肆號、これは紅豆、芋圓、黒心白玉(中に黒ごまが入っている白玉です)のトッピングがあらかじめセットになっている豆花です。72元でそのうち2元が袋代。台湾ではビニール袋やストローは有料の店が多いようです。

11日目の昼にUberEatsで注文した、豆花荘の総合肆號豆花

11日目の昼にUberEatsで注文した、豆花荘の総合肆號豆花

午後には勤務先と臨時のミーティングを開いて、メンバーに今やっている研究を紹介してもらいました。業界独特の使い方をする単語や略号が多いため、いちいち質問しながらになるのですが、これから小グループを形式上まとめることになる立場としては、各自の研究テーマを一言で表現する言葉と、プロジェクト全体との関係が何となく分かったことで十分としましょう。直接人と会わず装置も見たことのない現状では理解できることにも限界があると思います。

 

そして、夜になりました。

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11日目の夕食。牛筋うどん、パイナップル、トマト

来ました、パイナップルです。そしてうどん。当たりの組み合わせです。

……おっと、スープに虫が入っていました。取り除いて飲みます。台湾ではマラリアも根絶されていますし、この程度のことで騒いでいては外国では生きていけません。むしろこういういい加減なところがあって初めて、外国に来たことを実感できるというものです。何しろここはウイルス一つ入れない、都心の隔離ホテルの一室ですからね。

 

12日目

朝食です。サンドイッチの容器に「法式」とあるのはフランス式のことで、要するにフレンチトーストのようにパンに味がついているんですね。

13日目の朝食。ピーナッツバターと卵焼きのサンドイッチ、トマト、グァバ、ぶどうジュース

12日目の朝食。ピーナッツバターと卵焼きのサンドイッチ、トマト、グァバ、ぶどうジュース

この日、日本から持ってきていた台湾華語の本*2を読み終えました。会話の例文や言い回しの話ばかりで、文法らしい文法が解説されていないのが気になります。英語と同じとはよく言われますが、全く同じでもないでしょう。

例えば疑問文では、「這是什麼?(zhè shì shén me、ㄓㄜˋ ㄕˋ ㄕㄣˊ ㄇㄜ˙、これは何ですか?)」を例にすれば、「ここ」と「何」の順番は英語と逆になっています。

また、「着いたら連絡してください」と言う時に「到的時候(到着する時、dào de shí hòu、ㄉㄠˋ ㄉㄜ˙ ㄕˊ ㄏㄡˋ)」と言うように、関係副詞から関係副詞節を始めるということもないようです。関係副詞節自体も、英語のように文の後ろに置かれるのではなく、日本語のように文頭に来ます。ofにあたるものも見当たらず、一言で言えば、後置修飾というものがないように見えます。

平叙文は英語と同じ語順だとしても、疑問文や複文の作り方は日本語に近いと思った方がいいのかもしれません。あるいは、疑問文や複文でもSVの語順を保つ、ということになるでしょうか。

 

昼食をキャンセルして、夕食です。この日は本を読み終えた後寝ていたので、スイーツも注文しませんでした。

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12日目の夕食。米、豚肉のそぼろ、サツマイモの葉のおひたし、キャベツの炒め物、厚揚げの炒め物、タロイモの炒め物、ワンタンスープ

 

13日目

13日目の朝食。ハンバーガー、トマト、グァバ、ぶどうジュース

13日目の朝食。ハンバーガー、トマト、グァバ、オレンジ、ぶどうジュース

この日も計算をしたりメールを書いたりしていました*3。これから研究で使おうとしている素材について、日本の会社に相見積もりを取るのですが、使える予算を把握していない身で高い特注品の相談をするのはどうにも不安がありますね。

 

明日はチェックアウトの日ですので、ホテルから退出時の注意事項がチャットで送られてきます。出発時間を12時までで教えてほしい、窓を開けてドアを閉めておくこと、マスクと靴カバーをしてフロントに来て領収書を受け取ること、借りたLANケーブルをその際に返すこと、それからいくつかの消耗品は持ち帰ってもいいそうです。持ち帰れるのは、体温計、衣服用と食器用の洗剤、スリッパ、小さい箒とちりとりのセット、布巾、そしてシャンプーとリンスとボディーソープです。スリッパと箒とちりとり以外は頂くことにしましょう。

 

ついでに、荷物がたくさんあるため、ホテルにタクシーを呼んでもらうことにしました。12時に乗車することにして、行き先を伝えると料金を教えてくれます。台北から桃園市中壢區まで1500台湾元(6000円くらい)、直線距離で30キロほどを高速を使って移動することを考えれば安い方ではないでしょうか。

 

せっかくの最終日なので、ホテルの食事もキャンセルしないことにします。

13日目の昼食。米、豚肉のグリル、煮卵、空心菜の炒め物、厚揚げ、もやしの炒め物、コーンスープ

13日目の昼食。米、豚肉のグリル、煮卵、空心菜の炒め物、厚揚げ、もやしの炒め物、コーンスープ

そして、出前も注文しました。杏仁豆腐専門店の杏仁豆腐ドリンク(70元)で、なつめと白きくらげが入っています。白きくらげは杏仁豆腐と合わせるには少し触感が柔らかすぎる気もします。

13日目にUberEatsで注文した、于記杏仁衡陽店の杏仁豆腐紅棗銀耳湯。

13日目にUberEatsで注文した、于記杏仁衡陽店の杏仁豆腐紅棗銀耳湯

と思ったら、デザートも来ました。これも白きくらげです。温かいシロップに漬かっています。

13日目のデザート。白きくらげとクコの実のスープ

13日目のデザート。白きくらげとクコの実のスープ

13日目の夕食。米、ハンバーグ、貝の醤油煮、空心菜のおひたし、スクランブルエッグ、チンジャオロース、大根のスープ、トマト、パイナップル

13日目の夕食。米、ハンバーグ、貝の醤油煮、空心菜のおひたし、スクランブルエッグ、チンジャオロース、大根のスープ、トマト、パイナップル

夕食です。スープは最後まで炙りビニールの味でしたね。どうも紙容器の表面のコーティングが溶け出しているのではないかと思うのですが、真相は最後まで分かりませんでした。

ずっと部屋にいると汗をかかないので、シャワーは二日半に一回ほどだったのですが、毎日同じ時間にシャワーを浴びて服も着替えた方が仕事は進んだかもしれません。2020年の時点で分かっていたことですが、なかなか上手くはいかない。せめてこの日は早く寝ることにします。

14日目

最後の食事です。

14日目の朝食。シーチキンとレタスのサンドイッチ、バナナ、ぶどうジュース

14日目の朝食。シーチキンとレタスのサンドイッチ、バナナ、ぶどうジュース

窓際に干していた洗濯物を取り込んで、荷物をまとめて12時前に部屋を出ました。来た時は裏口から入ったためロビーの様子は分かりませんでしたが、ロビーもテープや看板で隔離用の動線と一般客用の動線が分けられています。

フロントで領収書を受け取ると、外にはもうタクシーが来ていました。トランクに大荷物を積み込みます。行き先は伝えてありますが、自分でも喋ってみます。……大学名の一言だけですが、「あ!?」と聞き返されました。二回目で通じたものの、本で勉強しただけでは発音にまだ難があるようです。ㄓか、あるいは四声でしょうか。

 

台北市内、松江南京駅付近

台北市内、松江南京駅付近

 

ともあれ、15日間の防疫隔離期間はこれにて終わりです。部屋が広かったためか性格のためか、一歩も外に出なくても特に不自由はしませんでした。

しかし、台湾の水際戦略はこれで終わったわけではありません。ホテルでの厳重な隔離の後、さらに自宅での「自主健康管理」があります。これは完全な外出禁止ではないものの、7日間にわたって人の多いところを避け、食事も飲食店の中ではなく全て持ち帰りにしなければならないというものです。勤務先の研究室にも行けないのですが、出歩けるならまだ楽しみもあるでしょう*4

 

次の記事ではたぶん、自主健康管理期間のことについて少し書きます。それ以降のことは、何かテーマごとに不定期に書いていきたいと思います。

 

 

今日の台湾華語

這 是 什 麼 ? - 火 腿 蛋 餅 。

zhè shì shén me ? - huǒ tǔi dàn bǐng .
ㄓㄜˋ ㄕˋ ㄕㄣˊ ㄇㄜ˙ ? - ㄏㄨㄛˇ ㄊㄨㄟˇ ㄉㄢˋ ㄅㄧㄥˇ 。

(これは何ですか? - ハムの蛋餅です。)

 

(前の記事)防疫ホテル7日目~10日目

(次に書く記事)自主健康管理期間

*1:裏を返せば、後で失敗して愚痴を言うのが許されないということでもある。

*2:樂大維, 『今日からはじめる台湾華語』, 白水社, 2017

*3:これまで特に明記してこなかったが、隔離期間に最も時間を割いたのは、寝ることを除けば、計算や各種連絡ではなく、このブログの小説版を書くことだった。

*4:この記事の公開時点では既に過去のこととなりつつあるが、ホテル脱出時点で想定していた台湾の「楽しみ」はその後、ほぼ四ヶ月先延ばしにされることになる。

防疫ホテル7日目~10日目

14日間の防疫隔離も折り返しです。

 

7日目

わたしは元々朝食を食べる習慣がなかったのですが、昼の弁当をキャンセルして朝食の分を昼に食べるとちょうどいいので、隔離期間の前半は大体そうしていました。それが、おやつの注文に味をしめたことでやや変化を迎えています。

7日目の朝食。玉子とピーナッツバターのサンドイッチ、トマト、りんご、ぶどうジュース

7日目の朝食。玉子とピーナッツバターのサンドイッチ、トマト、りんご、ぶどうジュース

7日目の昼食。米、ローストチキン、空心菜の炒め物

7日目の昼食。米、ローストチキン、茹でた空心菜

この日も夕食をキャンセルして、甘いものを頼むことにします。前日は豆花にしたので、今日は違うものにしましょう。「徐杯杯粉圓仙草」の仙草ゼリーにしました。仙草というのはシソ科の植物で、体の熱を取り除く働きがあるということになっています。これも豆花と同じように、上に乗せるトッピングを選べるんですね。

わたしが注文したのは牛奶芋圓雙寶、つまり仙草ゼリーに牛乳をかけて、芋圓が入り、その上にさらに二種類のトッピングを選べるというやつです。雙が双にあたるわけですね。地瓜圓(サツマイモの団子)と紅豆(小豆)にしました。配送料込みで105台湾元。代表的なトッピングの呼び名は前の記事をご覧ください。

7日目、foodpandaで注文した徐杯杯粉圓仙草の牛奶芋圓雙寶

7日目、foodpandaで注文した徐杯杯粉圓仙草の牛奶芋圓雙寶

黒いのが仙草ゼリーです。少し苦みがあって美味しい。あるとき熊野新宮で食べた烏薬ゼリーに似ています。しかしわたしとしては、主役の仙草ゼリーよりも芋圓の方が気に入っていますね。
と思っていると、キャンセルしたはずのホテルの夕食が来ました。まあそういうこともあるでしょう。

7日目の夕食。米、豚肉の揚げ焼き、胡瓜、イカ、トマト、オレンジ、グァバ

7日目の夕食。米、ポークピカタ、胡瓜、イカ、トマト、オレンジ、グァバ

 

さらに、この日は勤務先の人が近くまで来ていて、何か欲しいものはないかと聞かれました。つまり、ホテルを介して差し入れができるんですね。何だかんだで台湾ビールを持ってきてもらえることになりました。LANケーブルの貸し出しや食事のデリバリーと同じように、部屋のチャイムが鳴ってドアの前のワゴンに置かれます。

台湾啤酒の無印とクラシック、及びアーモンド小魚とガーリックアーモンド

台湾啤酒の無印とクラシック、及びアーモンド小魚とガーリックアーモンド

飲み比べてみましたが、どちらかといえばクラシックの方がわたしの好みですね。

 

 

8日目

8日目の朝食。マクドナルドのマフィン(日本にはないメニュー)

8日目の朝食。マクドナルドのマフィン(日本にはないメニュー)、ぶどうジュース

この日は、デザートではなく食事を注文してみることにしました。ここまでfoodpandaを二回使っているので、もう一つの方、UberEatsで探します。foodpandaの方が登録されているお店の数は多いのですが、UberEatsにしかないお店もあります。例えば、台北にある小籠包の有名店、常に二時間待ちの行列ができているという「鼎泰豐(dǐng tài fēng、ㄉㄧㄥˇ ㄊㄞˋ ㄈㄥ)」がそれです。

今は観光客がいないこともあって、デリバリーで普通に食べられるんですね。見聞を広めるために、注文してみましょう。中の具が牛肉や海老などいくつかありますが、基本の豚肉にします。おかずの小菜もつけましょう。何かのキャンペーンで配送料が無料になっているので、合計290台湾元です。

UberEatsは注文した後の通知がかなり細かく来ます。ドライバーが今どこにいるか、地図で確認することもできるんですね。心なしか日本より位置情報の精度がいい気がします。そういえばわたしのスマホも隔離期間中の位置情報を政府に監視されているのでした。毎日11時にはSMSが来て、体調に問題がなければ1を押すというのを欠かさずやっています。

また、台湾のUberEatsはバイクで来ます。ホテルから窓の下の道路を見ているだけでもしょっちゅうバイクが通ります。が、台湾に来る前に聞いていたような「バイク地獄」というほどのものはここまで見ていません。

わたしの部屋に料理が来る前に「配達が完了しました」と表示されて、ドライバーにチップを贈れるボタンが出ました。5%から20%くらいまで選べるのですが、わたしはお雇い外国人の身で外にも出ず贅沢をしている自覚があるので、5%を贈っておきました。

届いたのがこれです。

8日目の昼食。UberEatsで注文した鼎泰豐の小籠包と小菜

8日目の昼食。UberEatsで注文した鼎泰豐の小籠包と小菜

薄皮の小籠包が10個。醤油はいらないと伝えたので酢と生姜だけがついています。小菜はきくらげと春雨と鶏肉の酢の物。

さっそくいただきましょう。ついてきた紙製のれんげに小籠包を一つ乗せて、まずは箸でつついて中のスープを出します。ただの醤油と油ではない、丁寧な味付けを感じますね。小籠包の本体も柔らかく、香味野菜の風味がある。小菜の酸味との相性もよいです。ちょうどビールもあります。

……一つ残念なのは、食べているうちに冷めてきて中のスープが固まってくることなんですね。五個目にもなると箸で穴を開けてもスープが出ません。これはお店で食べる時に期待しましょう。

 

夕方になって、外からぴろぴろした音楽*1が聞こえてきました。外を見ると、ホテルの前の道路に二台のゴミ収集車が停まって、そこにゴミ袋を持って集まっている人たちがいます。聞くところによると、台湾にはゴミの収集場所というものがなく、こうやって巡回してくるゴミ収集車に直接入れるということです。大きなバケツが出ているのは生ゴミ用でしょう。

一日の回収はこれで終わりではなく、夜の10時ごろにまた同じ音楽でやってきました。

ゴミ収集車

ゴミ収集車。この後ろに黄色いゴミ収集車もいる

 

夕方まで中国語の勉強をして、夕食はいつも通りホテルの用意した弁当です。

8日目の夕食。米、鶏つくね、空心菜と茄子とかまぼこの炒め物、ザーサイ、トマト、オレンジ

8日目の夕食。米、鶏つくね、ちんげん菜と茄子とかまぼこの炒め物、ザーサイ、トマト、オレンジ

 

9日目

台湾にはモスバーガーもあります。

9日目の朝食。モスバーガー、バナナ、りんごジュース

9日目の朝食。モスバーガー、バナナ、りんごジュース

昼食をキャンセルして、中国語の勉強をします。わたしは文字を覚えることに関しては物理より自信があるので、この頃には台湾華語の「ふりがな」にあたるものを覚えました。ㄉとかいうやつがそれで、注音(ちゅういん)といいます。アルファベットのように母音と子音があります。漢字は見ただけでは発音が分かりませんが、台湾の子供向けの本なんかにはこの注音が一緒に書いてあって、それで漢字の読みを覚えるというんですね。

 

夕方になって、また何かデリバリーで頼むことにします。今日はfoodpandaに登録されている、(75元)です。トッピングは薏仁と花生と芋圓。何だか前と変わり映えしませんが、わたしは豆漿と芋圓が気に入ったので、しばらくこんな感じの注文になると思います。

foodpandaで注文した、晴贊豆花の豆漿総合豆花

foodpandaで注文した、晴贊豆花の豆漿総合豆花

 

夕食は、初めて皮で包んだ料理が出ました。前日にわたしが小籠包を頼んだのを見てのことでしょうか。たぶんそうではないはずです。冬瓜のスープは焼きビニールの味がしますが、蒸し餃子は非常においしいですね。

9日目の夕食。蒸し餃子、きゅうりと人参の酢の物、ザーサイ、冬瓜のスープ、トマト、りんご

夕食の後で、勤務先の学生が博士課程に進学するための面接を受けるというので、その発表練習に付き合いました。台湾の大学の博士課程は日本より厳しく、一年目で研究の方向性や成果について審査があり、落ちるとそこで退学になるというんですね。これはアメリカに倣ったやり方で、博士課程で研究をする素質のない学生を早めに追い返すのはむしろ慈悲の行いであるという人もいます*2

わたしが採用されるくらいですから、勤務先の研究室は中国語ではなく英語ですべての活動をします。当の学生の面接練習も英語でしました。内容についてはわたしのよく知らないこともありますが、発表のテクニックとして、スライドに貼った図のどこに注目してほしいか、どういうメッセージを読み取ってほしいかを簡潔に文で書き入れてはどうか、というアドバイスをしました。日本で何の気なしにやっていたことが役に立って、少し驚きます。

 

10日目

10日目の朝食。シーチキンの四段サンドイッチ、トマト、オレンジ、りんごジュース

10日目の朝食。シーチキンの四段サンドイッチ、トマト、オレンジ、りんごジュース


学生がいる研究室では大体どこでもそうだと思うのですが、文献紹介またはジャーナル・クラブといって、定期的に誰かが興味のある論文を読んできて内容を発表する会がわたしの勤務先にもあります。

わたしは四月からこの文献紹介の会の幹事を任されているので、次の週の担当の学生に進み具合を聞いたり、場合によっては論文をこちらで探してあげたりする必要があります。まだarXiv*3を見る習慣のない学生や、見つけた論文が自分の役に立ちそうかどうか判断するための自分なりの基準を持っていない学生もいるからです。

この日は次の4週分くらいの学生に薦めてみる論文を探しました。学生たちが今やっている研究に関係なくはないけれどもちょっと中心を外している、という感じの論文をキーワード検索して、あまり長くないやつを選んで、要旨を流し読みして面白そうならダウンロードしておきます。ちょっと中心を外すのは見聞を広げてもらうためですが、もちろん発表を聞く方の学生やわたしもこの恩恵を受けられます。

 

10日目の昼食。米、鮭、ゆで卵、キャベツと人参の炒め物、硬い豆腐の炒め物、ブロッコリーのおひたし、わかめスープ

10日目の昼食。米、鮭、ゆで卵、キャベツと人参の炒め物、硬い豆腐の炒め物、茹でたブロッコリー、わかめスープ

 

さて、夕食に何か注文しようと思います。ずっと小籠包では芸がないので、台湾の定番メニューといわれる鷄肉飯(jī ròu fàn、ㄐㄧ ㄖㄡˋ ㄈㄢˋ)がいいでしょう。鶏のむね肉をほぐしたやつをご飯に乗せて、甘いたれがかかっているはずです。豚肉で作る魯肉飯(lǔ ròu fàn、ㄌㄨˇ ㄖㄡˋ ㄈㄢˋ)の方が有名かもしれませんが、今はあっさりしたものが食べたい気分です。

foodpandaで見ると、巷仔内・程家魯肉飯という店に、鷄肉飯、魯肉飯、そして鷄と豚の両方が乗っているであろう鷄魯飯がありました。どうせなら両方食べられるやつにしましょう。鷄魯飯は50元で、これだけ頼むのは何か申し訳ない気がします。おかずも何か台湾ならではの料理を試してみようと思いまして、麻辣豬血(má là zhū xiě、ㄇㄚˊ ㄌㄚˋ ㄓㄨ ㄒㄧㄝˇ、55元)をつけました。配送料はこれらに加えて35元です。

10日目の夜にfoodpandaで注文した、巷仔内・程家魯肉飯の鷄魯飯と麻辣豬血。

10日目の夜にfoodpandaで注文した、巷仔内・程家魯肉飯の鷄魯飯と麻辣豬血。

三十分ほどで届きました。ご飯は紙の弁当箱に入っていて、そこに蒸し鶏のほぐしたやつと豚の角煮を細かく刻んだやつが乗っています。これはまったく見た目から想像できる通りのおいしさです。

麻辣豬血の豬とは豚であり、つまり麻辣豬血とは豚の血を豆腐くらいの柔らかさに固めたものがゴロゴロ入っている辛いスープです。豚の血と聞くと衛生的に大丈夫なのかと思いますが、台湾では当たり前に使う食材で、加熱してあれば大丈夫らしいんですね。たぶん。

豬血は一つがサイコロステーキくらいの大きさで、赤茶色をしていて、断面も豆腐のように固まっています。食べてみると、あからさまな血の味がするというわけでもなく、レバーとも少し違いますし、なんとも血らしさのない料理です。しかしまずくはありません。他の具はキャベツで、スープ自体もおいしい。体が温まるような気がしますね。

 

防疫ホテルでの生活も残りわずかになってきました。あとの4日間も、おそらく配達グルメをあれこれ試しているうちに過ぎるでしょう。

 

今日の台湾華語

鼎 泰 豐 豬 肉 小 籠 包 還 有 小 菜

dǐng tài fēng zhū ròu xiǎo lóng bāo hái yǒu xiǎo cài
ㄉㄧㄥˇ ㄊㄞˋ ㄈㄥ ㄓㄨ ㄖㄡˋ ㄒㄧㄠˇ ㄌㄨㄥˊ ㄅㄠ ㄏㄞˊ ㄧㄡˇ ㄒㄧㄠˇ ㄘㄞˋ

(鼎泰豐の豚肉小籠包、そしておかず)

 

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*1:Modlitwa dziewicy op.4, Tekla Bądarzewska-Baranowska, 1851

*2:temp_hakaru(2021)によれば、この「博士課程で研究をする素質」とは、実験物理学に限っては、日本の高校レベルの数学と理科と英語の知識、人から習得を勧められた技術を吸収する素直さ、露見して困る種類の嘘をつかないこと、の一部または全部を指し、物理系研究者の間で俗に「物理がわかっている」という言い方で表されるものの寄与は1次の摂動として表れる。

*3:arXiv.org e-Print archive

防疫ホテル3日目~6日目

2021年4月、台湾に入国して最初に入る防疫ホテルの生活の記録です。

 

3日目

 8時に朝食が来ます。サンドイッチに入っている玉子は寿司のタマゴのようなもので、甘くて弾力があります。徐々に明らかになっていくのですが、台湾の食べ物はどれも大体甘いんですね。味をつけるといえば必ず砂糖を入れる。そうでなければ辛くするかです。

3日目の朝食。ピーナッツバターと卵焼きのサンドイッチ、バナナ、ぶどうジュース

3日目の朝食。ピーナッツバターと卵焼きのサンドイッチ、バナナ、ぶどうジュース

昼食はキャンセルして、できた時間で就職先のボスと研究計画を相談しました。研究室にこんなメンバーがいてこういう研究をしている……学生の計算をクロスチェック*1した方がいい……小プロジェクトのスケジュールを立ててガントチャート*2を作る……進捗が遅れている学生のケツを叩いてほしい(無理では?)……そういうことについてレクチャーを受け、大学に到着する前から新しい研究を始めてしまいます。

何しろ部屋からも出られない完全隔離ですから、他の用事が入ることは絶対にありませんし、体調を崩した時は即座に隔離病棟に移される時です。仕事をしていない時間はサボっているか寝ている時間。よくできていますね。

 

通話を終わらせて広い部屋を満喫しているうちに、夜になりました。

3日目の夕食。米、魚の蒲焼き、湯葉の炒め物、ベビーコーンの炒め物、空心菜と茸の炒め物、炒り卵、筍のスープ、トマト、パイナップル

3日目の夕食。米、魚の蒲焼き、湯葉の炒め物、ベビーコーンの炒め物、空心菜と茸の炒め物、炒り卵、筍のスープ、トマト、パイナップル

この小さなスープの容器、0日目と同じ店です。つまり、溶けた発泡スチロールもしくは真新しいゴム製品の風味がある。まあいいでしょう。

デザートは最近日本でも話題の台湾パイナップル、中国が買わなくなって余っている台湾パイナップル。噂に違わず美味しいですね。ホテルに「美味しかった(のでまた出してくれ)」と連絡を入れました。絵文字が二個返ってきます。

 

この日は洗濯をしました。四日分ほどの洗濯物があるのですが、下着しか替えていないのであまり量はありません。洗剤は洗面所に置いてあります。ここで役に立つのが、無印良品の旅行用洗濯セットだったりするんですね。今どき洗濯板もあまり見ませんが、小さい衣類ならこれで何とかなります。

日本から持参した無印良品の洗濯セット

日本から持参した無印良品の洗濯セット

問題は、干すところがないことです。シャワースペースの手すりにロープを結んだりもしてみましたが、結果から言えば大して乾きませんでした。最終的には窓を開けてカーテンに吊るすやり方に落ち着きました。

 

  

 4日目

4日目の朝食。油條のクレープ、トマト、オレンジ、ぶどうジュース

4日目の朝食。油條のクレープ、トマト、オレンジ、ぶどうジュース

この棒状のものは何でしょう。刻み葱の入ったチヂミのような厚い生地で、揚げパンのようなものを巻いています。中の揚げパンが油條(yóu tiáo、ㄩㄡˊ ㄊㄧㄠˊ)らしいということはガイドブックを見れば分かるのですが*3、巻いてある生地を何と呼ぶのかは分かりません。

 

昼食はいらないと伝えたのですが、昼になると弁当が来ました。キャンセルしたのになぜ? 外国ではこういうことはよくあります。いちいち苦情を言っていてはタフでグローバルな研究者になれません*4

4日目の昼食。米、豚肉そぼろ、煮卵、冬瓜のおひたし、キャベツの酢の物、茸と筍の炒め物、鶏つくねのスープ、白玉入りの甘いスープ

4日目の昼食。米、豚肉そぼろ、煮卵、冬瓜のおひたし、キャベツの酢の物、茸と筍の炒め物、鶏つくねのスープ、白玉入りの甘いスープ

大きなカップに入っているのは、デザートの白玉入りスープです。シロップというほどの甘さではなく、またしても炙り発泡スチロールの味がするのですが、これは温かいうちに一気に飲めばまだマシになることが分かってきました。ご飯に乗っている豚肉のそぼろはおいしいですね。豆鼓で味付けをしてあります。
昼食の後、すぐに夕食をキャンセルするメッセージを入れました。夕食は来なかったので一安心です。 

 

ところで、昨日の昼のところで、これから行く研究室の人と打ち合わせをしたと書きました。各階に飛んでいるオープンwi-fiに接続していましたが(わたしの部屋は二階です)、どうも通話中の通信速度が遅い気がします。机のある壁に優先LANのソケットがあるので、LANケーブルを借りられないかホテルに訊いてみることにしました。ついでに替えのゴミ袋も。一言「OK」とだけ返ってきます。

十分もすると部屋のチャイムが大音量で鳴って、しかし出ると誰もおらず、キッチンワゴンの上に束ねたLANケーブルが置いてありました。さっそく使わせてもらいましょう。

 

5日目

5日目の朝食。ツナのサンドイッチ、バナナ、りんごジュース

5日目の朝食。シーチキンのサンドイッチ、バナナ、りんごジュース

このサンドイッチ、四段になっているんですね。つまりパンが四枚重ねになっていて、それぞれの間に具が入っているということです。具は玉子やらシーチキンやらキャベツやらですね。これだけあればお昼はいらないので、今日もキャンセルします。

 

勤務先の人とチャットで相談をして、わたしが担当することになる小プロジェクトのメンバーに 、それぞれの今の研究内容を詳しくレクチャーしてもらう機会を近いうちに設けることにしました。

研究とプロジェクトというのは少し関係が分かりづらいかもしれません。物理の実験は大型の装置で精度を上げたり新しい現象を探したりするのが世界的な傾向で、そうなると100人とか1000人規模のプロジェクトになるわけです。そういうところでは、自分自身の興味のあることを研究するというより、プロジェクトの中で誰かがやる必要のある研究を割り当てられるという形に近くなります。

特に理系の実験系の学生というのは、まだ自分の関心が固まっていないことも多くあります。例えば、ひとくちに宇宙の研究がしたいといっても、宇宙の何を解明するためにどの実験プロジェクトに参加するのか、そのプロジェクトを成功させるためにどういう研究をするのかということはなかなか決められません。ですので、わたしが行く先の学生も、指導教員がプロジェクトの一部を研究テーマとして与えています。そこで現場の経験を積んで、今後の身の振り方を考える材料にしてもらおうというんですね。

 

 

夕食はつけうどんです。ここまでの食事の中では、わたしはこのスープが結構好きなんですね。塩加減が日本の食事に近いですし、牛筋のボリュームもある。デザートの果物はたぶんパパイヤでしょう。

5日目の夕食。うどん、牛筋入りスープ、パパイヤ

5日目の夕食。うどん、牛筋入りスープ、パパイヤ

 

6日目

この日の朝食は珍しくお粥です。

6日目の朝食。豚のそぼろ煮の粥、トマト、グァバ

6日目の朝食。豚のそぼろ煮の粥、トマト、グァバ

今日は思うところあって、夕食の方をキャンセルすることにしました。

昼の弁当です。これは美味しいですね。

6日目の昼食。米、チャーシュー、ローストチキン、空心菜と油揚げの炒め物、ゆで卵

6日目の昼食。米、チャーシュー、鶏むねのグリル、豚肉のソテー、空心菜と油揚げの炒め物、ゆで卵

夕方には就職先の人と通話で打ち合わせをしました。進捗が遅れている学生に作業を振り直すので相談したいということでした。とはいっても、わたしはプロジェクトの細部まで把握しているわけではないですし、メンバーの人となりもまだ分かっていません。経験則だけを伝えて参考にしてもらうことにします。

現代の若手研究者としては、できるだけ相手の自尊心を損なわない方向で行きたいと思いますね。

 

さて、防疫ホテルでは一日中歩かないので大してお腹はすかないのですが、出された弁当だけを食べていると、「自分で食事を選ぶ」ということがしたくなってきます。そこで机の上にある滞在中の注意書きを読むと、ちゃんと食事のデリバリーサービスについて書いてあるところがあるんですね。「UberEatsかfoodpandaを注文する時には、必ずカードで先払いし、名前と部屋番号を確実に伝えてください」という具合にです。フロントまで届けてもらってホテルの従業員が部屋まで運ぶ、対面では支払えない、ということなんですね。

早速インストールしてみます。聞き慣れない方にしましょう。foodpandaという名前だけ聞くと台湾か中国発のサービスのように思えますが、ドイツ発なんですね。最近日本でもサービスを始めたという話です。

名前は漢字で登録、住所の方にホテルの住所を書いて、「ドライバーへの備考」のところに部屋番号とローマ字の名前を書きました。クレジットカードは日本のカードで大丈夫でしょう。台湾のスイーツとして名前を聞いていた、豆花(dòu huā、ㄉㄡˋ ㄏㄨㄚ)を注文することにします。豆花というのは豆乳から作ったプリンで、これにシロップやナッツを乗せて食べるんですね。

foodpandaのホーム画面から、「Search for shops & restaurants」で料理の名前や店名を検索できます。

foodpandaのホーム画面

foodpandaのホーム画面

foodpandaで住所を台北のホテルにし、「豆花」で検索した結果

foodpandaで住所を台北のホテルにし、「豆花」で検索した結果

近くの店が出てきて、配送料とかかる時間が分かります。甘いもの以外の店も出てきますが、「豆」と「花」がつくメニューがありさえすれば引っかかるのかもしれません。

わたしは「梁記豆花(台北安東店)」で注文することにしました。配送料35台湾元、配送時間25分。「総合豆漿豆花」というメニューがあって、シロップの代わりに豆乳、上に乗せるトッピングは三種類選べるようです。

ここで、代表的な豆花のトッピングを見てみましょう。

花生(huā shēng、ㄏㄨㄚ ㄕㄥ、落花生)

紅豆(hóng dòu、ㄏㄨㄥˊ ㄉㄡˋ、小豆)

花豆(huā dòu、ㄏㄨㄚ ㄉㄡˋ、花豆またはベニバナインゲン豆)

緑豆(lǜ dòu、ㄌㄩˋ ㄉㄡˋ、緑豆またはムング豆)

薏仁(yì rén、ㄧˋ ㄖㄣˊ、はとむぎ)

珍珠(zhēn zhū、ㄓㄣ ㄓㄨ、タピオカ)

粉粿(fěn guǒ、ㄈㄣˇ ㄍㄨㄛˇ、澱粉から作ったゼリー)

仙草(xiān cǎo、ㄒㄧㄢ ㄘㄠˇ、仙草から作ったゼリー)

木耳(mù ěr、ㄇㄨˋ ㄦˇ、きくらげ)

芋圓(yù yuán、ㄩˋ ㄩㄢˊ、タロイモから作った団子)

芋頭(yù tóu、ㄩˋ ㄊㄡˊ、蒸したタロイモ

地瓜圓(dì guā yuán、ㄉㄧˋ ㄍㄨㄚ ㄩㄢˊ、サツマイモから作った団子)

QQ(澱粉から作った弾力の強いグミ)

今回、わたしは粉粿と芋圓と薏仁にしました。トッピング以外に、冷たいのか熱いのか、甘さはどのくらいにするか選べます。「冷飲」の「正常糖」にしましょう。

注文するとすぐに、「食事を準備しています」のようなメッセージと共に、到着時間の目安が表示されます。

foodpandaの注文画面

foodpandaの注文画面

foodpandaの到着予定時刻の表示

foodpandaの到着予定時刻の表示


115台湾元ということは400円くらいで、配達料も込みだと考えるとあまり高くはありません。

到着予定時間とほぼ同時に、「配達が完了しました」のような通知が来ました。それから五分ほどで部屋のチャイムが鳴り、キッチンワゴンに料理が置かれているというわけです。

foodpandaで注文した梁記豆花の総合豆漿豆花

foodpandaで注文した梁記豆花の総合豆漿豆花

……豆乳で中身が見えませんね。しかし、これは非常に美味しいです。豆花そのものは味の濃い絹ごし豆腐ですが、強い弾力のある芋圓の食感でバランスが取れています。気に入りました。毎日でも注文したいですね。

 

今日の台湾華語

総 合 豆 漿 豆 花

zǒng hé dòu jiāng dòu huā
ㄗㄨㄥˇ ㄏㄜˊ ㄉㄡˋ ㄐㄧㄤ ㄉㄡˋ ㄏㄨㄚ

 

 

(前の記事)防疫ホテル0日目~2日目

(次に書く記事)防疫ホテル7日目~10日目

 


 

 

*1:ここでは単に計算過程に間違いがないか他の人が確かめること。

*2:ここでは、何の仕事を何日かけて何日までに終えるかを色付きの棒で示した図。ガントチャート - Wikipedia

*3:地球の歩き方 D11 台北 2018~2019年版』, ダイヤモンド・ビッグ社, p. 48, 2017

*4:平成24年度東京大学学部入学式 総長式辞 | 東京大学

防疫ホテル0日目~2日目

(これまでのあらすじ)2021年4月末、わたしは就職のために台湾にやってきました。折しも新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大している時節、世界に先駆けて構築された厳しい水際対策のただ中にです。そして空港直送の防疫タクシーで向かった先は、15日間一歩も出ることのできない防疫ホテルの防疫隔離部屋でした……

 

 

0日目

0日目、というのは防疫ホテルに着いた日のことを指します。よく14日の隔離と言われている数字には、到着日は含まれないんですね。

部屋に入ってすぐに、机の上に置かれている資料を確認します。そこには指示や注意事項が事細かく書かれています。最初にやるのは、ホテルのフロントとメッセージアプリで連絡を取れるようにすること、そしていくつかの書類の写真を撮って送ること。パスポート、検疫通知書、隔離の同意書にサインしたやつを送ります。

それから、「朝食のときの飲み物は何がいい?」という質問が来ます。コーヒー、牛乳、ジュースがある中で、わたしはジュースにしました*1。今後は毎日ジュースが来ますが、途中で変えることもできます。

着いたのが昼の1時ごろでしたので、ほどなくして昼食が来ました。部屋の前のキッチンワゴンに、知らぬ間に置かれています。このように。

部屋の前に食事が置かれている様子

部屋の前に食事が置かれている様子(別の日のもの)

廊下に足を踏み出さないように気をつけながら、こうした弁当を取って机で食べるわけです。記念すべき最初の食事はこんな感じです。

0日目の昼食。米、鶏肉、きゅうりと茸の炒め物、湯葉、空心菜、ザーサイ

0日目の昼食。米、鶏肉、きゅうりと茸の炒め物、湯葉空心菜、ザーサイ、冬瓜のスープ

味の方は、鶏肉は甘い、他はだいたい辛い、そんな感じです。日本の料理のように出汁というものはありませんが、悪くはありません。ですが、セットになっている冬瓜のスープ、これはいけない。皆さんは小さいころに火遊びで発泡スチロールを燃やしたことがおありで? そういう味がします。わたしは出された食事は全部食べることにしているので、まあ飲むんですけども。

このホテルはフロアごとにwi-fiが飛んでいるので、机でパソコンを出して仕事をすることもできます。就職先に一報入れて、何かパイソン・コオドでも書こうとするんですが、いや、ダメですね。せっかくの広い部屋をまずは謳歌したい。キングサイズのベッドでごろごろしている間に夜です。

 

夕方の6時ごろになると夕食が来ます。今度はホテルからメッセージがありました。以後、食事が来る前か後に毎回知らせてくれるようになります。

配膳の時間を知らせるメッセージ

配膳の時間を知らせるメッセージ

夕食はこんな感じです。

0日目の夕食。米、煮魚、ゆで卵、切り干し大根、ブロッコリーとカリフラワー、キャベツの酢の物

0日目の夕食。米、焼き魚、ゆで卵、切り干し大根、ブロッコリーとカリフラワー、キャベツの酢の物、筍のスープ、トマト、オレンジ

焼き魚というより、これ蒸してあるような気もするんですが、分かりません。どうやら米の上に肉か魚を乗せるのが台湾の主食らしいと思い始めてくるころです。乗せる物によっては米がふやける。今がそうです。発泡スチロール風味のスープと合わせて頂きます。

ただ……味はいいとして、昼から何も動いてないのに夕飯を食べるのはちょっとしんどいんですね。朝と夜だけでいいような気がしてきます。滞在中の注意事項には「食事つきのプランで食事の一部をキャンセルした場合でもその分は払い戻しされない」というようなことが書いてありますので、つまりキャンセルはホテル側の想定内ということです。明日相談してみましょう。

食べ終わった後の弁当の容器は、部屋にあるゴミ袋に入れておいて、いっぱいになったら部屋の外のトレイに出すと昼の3時ごろに回収されるそうです。

シャワーを浴びるのが面倒だったので、この日はそのまま寝ました。どうにも張り合いのない台湾初日です。

 

 

1日目

朝は8時に朝食が来ます。しかし食べる前に、まずは体調のチェックをしなければいけません。机の上に消毒用アルコールなんかと一緒にデジタル体温計があって、それで体温を測ります。35度7分。わたしは普段からこのくらいです。37度5分を超えるとまずいらしいんですね。

この体温計の数字は写真に撮ってチャットアプリでホテルに送らなければいけませんので、体調記録表と一緒に撮ります。体調記録表には体温、鼻水鼻づまり、咳、呼吸困難、全身倦怠、筋力、すぐ診察が必要かどうかを記入する欄があって、それが15日分並んでいます。

体調記録表

体調記録表

体調記録表と体温計の写真をホテルに送ると、すぐにスタンプが一つ返ってきました。フレンドリーですね。

ついでに、今日の昼食がいらないということも伝えておきました。予約するときにメールでやりとりした感覚からすると、向こうはあまり複雑な英語はよく分かってくれないので、どういう言い方にするといいのか、やや悩みます。

体調記録表と体温計の写真をホテルに送る

体調記録表と体温計の写真をホテルに送る

 

さて、朝食です。

1日目の朝食。サンドイッチ、トマト、グァバ、ぶどうジュース

1日目の朝食。サンドイッチ、トマト、グァバ、ぶどうジュース

台湾では、どうやらトマトは果物の部類に入るようですね。グァバは梨に似ていますがもっとあっさりしていて、果汁もほとんどありません。サンドイッチの具はレタスとシーチキンでした。ちなみに箸はステンレスですので、金属の刺激が気になる方がいるかもしれませんね。わたしは気になりました。

 

この日は月曜日ですので、仕事らしきものをしなければなりません。何しろ日割り計算で給料が発生しているというんですね。パイソン・コオドを書きましょう。

……ダメです。何もやる気が起こりません。物理学者というのは人前に出る機会がなければ服に頓着するということをしないので、わたしもわざわざ寝巻から着替えたりはしないわけですけれども、これはテレワークと相性が悪いことが知られています*2。気分が乗ってくるまで、もう少し広い部屋を満喫しましょう。

昼の11時ごろに、突然中華電信の電話番号にSMSが来ました。台湾政府の衛生福利部疾病管制室(CECC)からです。ここでも体調チェックをするそうです。健康なら1、コロナらしき症状があれば2、その他の体調不良は3を送信すると、自動で返信が来ます。「I'm 1.」「1.」など、他の記号や文字が入っているとエラーメッセージが来ますので、数字のみを送ります。

衛生福利部疾病管制署からの体調確認SMS

衛生福利部疾病管制署からの体調確認SMS

 

12時に配膳のメッセージは来ず、少しドアを開けてみても弁当の姿はありませんでした。昼食がいらないと言ったのが通じたようです。

仕事は億劫なので、中国語の勉強をすることにしました。わたしは『今日からはじめる台湾華語』*3という本を持ってきています。中国語は発音が難しいとはよく言われますが、カタカナに頼らず四声込みのピンインか注音で単語を覚えていけば恐れることはない気がしますね。

 

夕方の4時ごろに、今度は電話がかかってきました。近くにある中山警察署からで、日本語で話しています。この14日間、同じ担当者が不定期に電話で体調確認をすること、携帯電話の電源を切ってはいけないことを再度伝えられました。つまり、ホテルがチャットアプリで、疾病管制署がSMSで、警察が電話で、それぞれ入国者の体調をチェックするということです。

有無を言わさぬ監視システムですが、行政とか企業とかに対してよほど信頼があるんでしょうか。例えば集めた個人情報から勝手に信用を数値化して売り買いしないとか、監視の範囲をどんどん広げてインターネットを検閲し始めたりしないとか。

 

夜の6時にはまた夕食です。温かい麺が来ました。これはいいですね。箸が金属でなければなおいい。麺をスープに入れて食べます。

牛すじ入り酸辣湯、うどん、トマト、林檎

牛すじ入り酸辣湯、中華麺、トマト、林檎

 この日はシャワーを浴びました。水がお湯になるまでにかなり時間がかかりますが、まあいいでしょう。シャンプー、ボディソープ、ハンドソープは用意されています。エアコンはつけていますし一歩も外に出ないので、毎日シャワーを浴びる必要もないかもしれませんね。

 

 

2日目

2日目の朝食。マクドナルドのマフィン、グァバ、トマト、りんごジュース

2日目の朝食。マクドナルドのマフィン、グァバ、トマト、りんごジュース

 この日は昼になるまで寝ていて、昼食をキャンセルするのを忘れたので、12時に昼食が来ました。直前にいらないと言われても向こうも困るでしょうからね。

2日目の昼食。中華丼

2日目の昼食。中華丼

夕方に日本の研究者と少し電話会議をします。そして、夜になりました。

2日目の夕食。米、鶏むね肉のグリル、キャベツの酢の物、昆布、つくねと冬瓜の炒め物、トマト、オレンジ、グァバ

2日目の夕食。米、鶏むね肉のグリル、キャベツの酢の物、昆布、つくねと冬瓜の炒め物、トマト、オレンジ、グァバ

どうやら、弁当の出所の店はいくつかあるようです。今日の食事は文句ないですね。夕食の弁当箱の蓋に「隔餐請勿食用」、つまり間食をするなというようなことが印刷されています。

 

今日の台湾華語

隔  餐  請  勿  食  用。

gé cān qǐn wù shí yòng.

ㄍㄜˊ  ㄘㄢ  ㄑㄧㄥˇ  ㄨˋ  ㄕˊ  ㄩㄥˋ

食事の間に(これを)食べないでください。 

 

しかし、この調子だと紹介することが毎日の食事しかなくなってしまいますね。それでもいいのかもしれません。隔離とはそういうことですから。あと13日分は台湾の弁当食レポということにしましょう。

 

 

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(次に書く記事)防疫ホテル3日目~6日目

*1:物理学者が皆コーヒーを常飲しているという通説に物理的根拠はない。

*2:private communication with temp_hakaru, 2020.

*3:樂大維, 『今日からはじめる台湾華語』, 白水社, 2017

防疫ホテルの予約~渡航~防疫ホテルに収容

※この記事の内容は小説版のこのエピソードに対応します。

 

台湾に渡航する日取りが決まったら、まず飛行機を予約します。その次に、防疫ホテルを予約します。ホテルに飛行機の便名を伝えるため、この順番になります。

 

飛行機については、特に注意することもないでしょう。欠航や遅延があるとスケジュールが大きく狂うため、わたしはLCCを避けてJALにしました。また、大荷物を持って街中を歩くのは骨が折れますから、自宅から全て空路にしました。地方空港から羽田経由の台北行きです。

ちなみに、国内線の区間と国際線の区間では預け入れ手荷物の規定が違うのですが、両方の区間を一つの予約番号で取ると、国内線区間でも国際線と同じ重さの荷物を預けられるようになります。また、別々に予約するより安くなります。それにしても、通しで30,000円台というのは他に客がいないせいでもあるのでしょうか。

 

より気になるのは防疫ホテルの方です。2021年4月現在、台湾では国籍を問わず全ての入国者に、14日間の完全隔離と7日間の自主健康管理が義務づけられています。14日間の隔離というのは、要するに一歩も外に出ず誰とも会わないようにし、毎日の体調を政府の機関に報告することです。入国の翌日を1日目として14日ですので、15泊必要になります。場所は自宅か政府の許可を受けた防疫ホテルになりますが、自宅でも家族との同居はできません。

わたしは当面の間、就職先の大学の宿舎に住むことになっているのですが、これは自宅とは勝手が違いますし、隔離は受け入れ態勢の整っているところの方がいいだろうと考えて、ホテルを取ることにしました。

台湾に空路で入国すると、空港から政府指定の防疫タクシーで直接ホテルに向かいます。国際空港は台北、桃園、台中、高雄にありますが、今の時期には台北と桃園行きの便しか飛んでいないと思います。台北でホテルを取るのがいいでしょう。

伝聞ですが、都市部を外れたホテルには窓がない部屋も多いといいます。ライフスタイルによっては、14日間窓がないと辛いでしょう。また、部屋の広さも考慮した方がよいと思います。わたしは窓なし四畳半でも大丈夫な気もしましたが、念のため台北で窓のあるホテルを探すことにしました。

交通部観光局のページに、防疫ホテルの一覧があります*1。ここにあるホテルを片っ端から調べるのですが、わたしの場合、防疫ホテルの指定を受けていることをトップページで大々的にアピールしていないホテルはその時点で候補から外すことにしました。本当は来てほしくないが名前を載せるためにとりあえず登録している、という本音が漏れているように思えるからです。

そうすると、台北にあって防疫プランの値段やサービスが親切に書かれているホテルはけっこう絞られます。相場は一泊2000~4000台湾元くらい。日本円で8000~16000円ですが、15泊もあると出費が馬鹿になりません。その上、決済はデポジットで先に全額を払います。ついこの前まで学生だったという場合には、先にクレジットカードの限度額を増額しておいた方がよいかもしれません。

わたしは最終的に、ショッピングエリアである中山区にある「台北馥華商旅 Forward Hotel Taipei」というホテルにしました。相場の範囲で安く、大きな窓があり、防疫プランの情報が充実しているからです*2

Forward Hotel Taipeiトップぺージ

Forward Hotel Taipeiトップぺージ

このとき、わたしが検索した日程では通常料金と「快閃優惠 Flash Sale」の料金があり、さらにそれぞれに三食付きと食事なしのプランがありました。「快閃優惠」は期間限定の安売りセールで(他のホテルにもあったため、政府絡みのキャンペーンだと思います)、通常料金より一泊1000台湾元ほど安くなります。食事については、詳しくは別の記事で書きますが、必要ないと思います。一歩も外に出ないのに一日三食は多すぎで、一日二食をデリバリーで頼む方が安いからです。

オンライン予約フォームで15泊分の料金を払い、ホテルにメールを出しました。泊まる目的が防疫隔離であることと、空港に着くのが午前中になることを伝えるためです。ホテルの担当者には英語が通じますが、時々やや見当違いな回答が来ることがあります。分からない点は根気よく表現を変えながら質問しましょう。わたしは上に書いた「快閃優惠」が外国人の防疫隔離の客にも適用されることをここで確かめました。

オンライン予約フォームを通さず、メールで空室照会から支払いまでを完結させることもできます。その場合、クレジットカード情報を記入する紙がPDFで送られてきますので、署名してスキャンして送り返すことになります。

これで防疫ホテルの予約ができました。もしキャンセルする場合、3日前までにキャンセルするとデポジットが全額返金されますが、3日前を過ぎてからは1泊分が引かれて返金されます。渡航前のPCR検査で陽性が出たり飛行機が欠航になったりした場合には、3日前を過ぎても全額返金されます。

 

4月末、わたしは日本の某都市の空港で、カウンターにビザ付きのパスポートを出しました。ビザに書かれている「SPECIAL ENTRY PERMIT」を確認してもらって、それからオンライン検疫システムに登録します。先に登録しておいた方がよいかもしれません。これはパスポート番号と泊まるホテルを台湾の衛生福利部に送信するものですが、入国する48時間前から登録できるようになります。入力し終わった画面でスクリーンショットを撮るよう指示がありますので、スマホで入力するのがいいでしょう。

つまり、労働許可書→ビザ取得の流れをこなしていなければ、羽田に行く前に止められるということです。

オンライン検疫システムの最終画面

オンライン検疫システムの最終画面

 

さて、羽田です。

羽田空港第3ターミナルの出発フロア。ほとんどのチェックインカウンターが閉まっている

羽田空港第3ターミナルの出発フロア。ほとんどのチェックインカウンターが閉まっている

カートに荷物を乗せて連絡バスで第3ターミナルに移動しますが、見事に人がいません。二か所にあるエスカレーターは片方が封鎖されていますし、チェックインカウンターもほとんど閉まっています。わたしはまずホテルに荷物を預けてお昼にしました。レストラン街も当然ほとんど営業していませんが、かろうじて「銀座 おぐ羅」が開いていました。穴子重の店です。

運転していないエスカレーター

運転していないエスカレーター

羽田空港第3ターミナルのレストラン街の表示。点灯している店は少ない

羽田空港第3ターミナルのレストラン街の表示。点灯している店は少ない

お昼を食べたら、ホテルに荷物を置いて、日本円を台湾元に両替しました。台北の空港に着いてすぐ、SIMカードを買う必要があるからです。しかし、両替は空港ではなく事前に外貨両替ドルユーロか何かでやっておいた方がいいと思います。ドルユーロで1元3.8円くらいのところ、空港の銀行では4.3円くらいでした。

 それから空港内のクリニックにPCR検査を受けに行きましたが、このときの様子は前の記事で紹介しています。5時間待って検査結果を受け取ったら、後はやることはありません。「せたが屋」でラーメンを食べてホテルに戻ります。

電光掲示板の運航予定表を見ると、国際便はほとんど欠航になっています。

国際線の運行予定表。右端の列の黄色が欠航を示す

国際線の運航予定表。右端の列の黄色が欠航を示す

 

台北行きの飛行機は翌日の朝でした。カウンターでチェックインをするときに再度、PCRの陰性証明書を持っているか、オンライン検疫システムには登録したか、防疫ホテルを予約しているか、14日と7日の隔離が必要なことを承知しているか、ということを確認されます。

ところで、ここで少しズルがあるんですが、わたしは学生のときに太平洋と赤道を飛び越えまくったために、JALグローバルクラブの会員になっているんですね。今回、普通の会員が使えるサクララウンジが閉まっていて、ファーストクラスラウンジが使えましたので、その様子もご紹介します。といっても、そう豪勢なものではなく、食事がセットメニューになっているくらいですが。机に貼られたQRコードから注文するのはコロナ対応のはずです。

JAL国際線のファーストクラスラウンジ

JAL国際線のファーストクラスラウンジ

和食セットと寿司

和食セットと寿司

ともあれ、台北行きの便は定刻通り出発しました。

私はエコノミークラスで予約していたのですが、客がいないあまりかプレミアムエコノミーに格上げされており、エコノミーには誰もいないようでした。客室乗務員さんも「大変ですねえ」のようなことを話しかけてくれます。

離陸して一時間ほどで機内食が出ました。ハヤシライス。これが、恐らくは最後の日本食になるのでしょう。

 

台北松山空港というのは台北市の繁華街のすぐ近くにあって、街中にあることにかけては日本の松山空港を上回ります。ハドソン川不時着事故のような雰囲気でビル街の中に下りていき、離陸からだいたい三時間ほどで着陸しました。機内から空港の様子を撮影してはいけないというアナウンスが流れます。軍事機密にあたるからです。

飛行機を降りると長い直線の廊下があります。いの一番に中華電信のSIMカード売り場が待ち構えていて、台湾の電話番号を持っていない人はここでSIMカードを買わなければなりません。有効期間によっていくつかの料金プランがありますが、わたしは180日のデータ通信・399元分の通話で3999元のプランにしました。現金とクレジットカードが使えます。設定は全て係員に任せます。日本語設定のままでも大丈夫です。

設定が終わると、隔離期間が終わるまで設定を変えてはいけない、スマホの電源を切ってはいけないという意味のことを言われます。これは電話やSMSやGPSで、衛生福利部や警察が常に監視することになっているからなんですね。

今度は、日本で登録したオンライン検疫システムの情報のうち、電話番号の部分を台湾の電話番号に変更します。これは係員が廊下の壁際にあるパソコンでやってくれます。ここで登録情報が全て印刷された紙、すなわち検疫通知書が発行されます。

同時に、さっき買った台湾の電話番号あてに、同じ書面がSMSで送られてきます。パスポート番号の下6ケタがパスワードになっていて、検疫通知書を見せるよう要求されたら、紙の代わりにこれを開いて見せてもよいことになっています。

検疫通知書(表)

検疫通知書(表)

検疫通知書(裏)

検疫通知書(裏)

さらに先に進むと、陰性証明書とホテルの予約証明をチェックする係員がいます。ホテルの予約証明については、ネットで予約した時の自動返信メールを見せればよく、到着日から15日間確保しているかを確認されます。

これで長い廊下はおしまいで、ほとんど閉まっている免税店エリアを通り過ぎて入国審査に向かいます。マスクを外して顔写真を撮り、両手の人差し指の指紋を取ります。質問されたのは「体調は大丈夫ですか?」「台湾に来るのは初めてですか?」の二つだけでした。ちなみにですが、英語以外が公用語になっている国では、先手を取って「Hello.」と挨拶をすると英語で話してくれることが多いです。

 

入国審査が終われば 、荷物を受け取って防疫タクシーに乗ります。ベルトコンベアで運ばれてきた荷物が濡れていますが、消毒液でしょう。ロビーに出るとすぐさま防疫タクシーの係員がやってきて、防疫ホテルの住所を書くように求められます。両替などをする暇はありません

荷物とわたしの体がアルコール噴霧器で消毒され、すぐに黄色いタクシーに乗り込みます。住所は紙に書いてあるため運転手と話す必要はないのですが、全く話してはいけないというわけでもなさそうです。わたしは悠遊カード(台湾のSuicaのようなもの)が使えるか中国語で尋ねたのですが、使えないようでした。

 

 空港からホテルまで125元(500円くらい)でした。台湾のタクシーが安いといっても、驚きの近さです。ホテルの裏手に乗りつけ、靴カバーをはめてから館内に入ります。ここでも荷物と体を消毒しますが、あとは自分で部屋に入るように指示されます。

荷物をカートに積んでエレベーターで二階に上がり、伝えられた部屋に入ります。各部屋の前にはキッチンワゴンが置いてあり、日々の食事やレンタル品は全てここに置かれるんですね。部屋で出たゴミは扉の横のトレイに置きます。

防疫ホテルの防疫フロアの廊下

防疫ホテルの防疫フロアの廊下

部屋の内装については、写真を見ていただくのが早いでしょう。14畳ほどの部屋で、十分やっていけるだろうと思わせる広さです。窓が二つあり、ちゃんと開きます。エアコンがかなり効いています。

防疫ホテルの部屋:入口より

防疫ホテルの部屋:入口より

防疫ホテルの部屋の窓からの景色。大通りに面している

防疫ホテルの部屋の窓からの景色。大通りに面している

トイレとシャワー室は広く、バスタブはありません。洗濯用と台所用の洗剤があります。つまり、服や食器は全て自分で洗わなければなりません

防疫ホテルの部屋:洗面所

防疫ホテルの部屋:洗面所

防疫ホテルの部屋:シャワー室

防疫ホテルの部屋:シャワー室

防疫ホテルの洗面所の備品

防疫ホテルの洗面所の備品。石鹸類、洗剤、スポンジ、歯ブラシ、歯磨き粉、剃刀、ドライヤー、箒とちりとり、シャワーマット

入口の左側には机とクローゼットがあります。クローゼットの中には一通りの備品があります。台湾では水道水が飲めないためミネラルウォーターが必要なのですが、このミネラルウォーターはなくなれば補充してくれるようです。

防疫ホテルの机とクローゼット

防疫ホテルの机とクローゼット

防疫ホテルのクローゼットの備品1

防疫ホテルのクローゼットの備品。タオル、ゴミ袋、トイレットペーパー、水のペットボトル24本

防疫ホテルのクローゼットの備品2

防疫ホテルのクローゼットの備品。湯沸かしポット、コップ、ステンレスの食器、お茶やコーヒーのパック

机の上には書類が置かれています。まずはホテル側と連絡を取れるようにするために、チャットアプリで友だち登録をして(What'sAppとLINEとWeChatがあります)、名前と部屋番号を伝えます。その後、二枚組の「居家検疫規範切結書」にサインをし、パスポートと検疫通知書の写真と一緒に送ります。右から二番目にあるのは毎日の体温と体調を記録する用紙で、毎日写真を撮って送ることになります。

衛生管理の注意書き、宣誓書、体調記録用紙、チャットアプリのQRコード

衛生管理の注意書き、宣誓書、体調記録用紙、チャットアプリのQRコード

 

さて、ようやく入国することができました。まずはこの部屋から一歩も出ることなく、15日間過ごさなければなりません。結果から言えばそう悪いものでもなかったのですが、その模様は今後の記事で紹介します。

 

 

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※この記事の内容は小説版のこのエピソードに対応します。

学歴書類認証~労働許可書~停留ビザ~PCR検査

※この記事の内容は小説版のこのエピソードに対応します。

 

何でしたっけ。

そう、防疫態勢を厳しくしている台湾に就職で行くための、書類を揃えるのでした。

まず、2021年3月時点で、外国人が台湾に渡るには「特別入国許可」付きのビザを取得する必要があります*1。そして、ビザは現在、「商務目的」「訪問学者」「宗教活動」にしか発行されません。留学や語学研修の発行は停止しています*2

わたしの場合、「商務目的」にあたります。「訪問学者」は、すでに日本の大学や企業に所属している人を、台湾の大学が雇用関係なしで一時的に招くものなので、わたしは該当しないんですね。

 

商務目的のビザを取るには、パスポート、写真2枚、ビザ申請書、労働許可書が必要です。

パスポートと写真はいいでしょう。ビザ申請書は、台湾外交部領事局のオンラインフォームで入力して印刷します。問題は労働許可書で、これは台湾の就職先が台湾労働部に申請して、海外から人を招くお伺いを立てて発行してもらうものなんですね。

外国人が台湾で働く場合、外国企業の現地法人なんかの代表者か、台湾でする仕事に関連する業務の経験者である必要があります*3。わたしの場合研究職なので、 修士以上の学位を持っていることを証明する書類があればいいわけです。

そういうわけで、2021年の2月に、内定先の大学の事務から連絡が来ました。パスポート、履歴書、写真、修了証明書をメールで送ってほしい、という内容でした。履歴書というのは日本の履歴書ではなく、自由な書式で自分の業績や認定資格なんかを箇条書きにした書類です。海外ではだいたいこれらしいですね。写真は大学の方で使うので、ビザの写真ほど髪や眼鏡の条件が厳しくありません。

さて、学位記または修了証明書をメールで送るのですが、自分の大学で受け取ったものをそのままスキャンして送っても効力がありません。台湾が日本に置いている台北駐日経済文化代表処で、これを文書証明してもらう必要があります。何の証明をするのか今ひとつ分かりませんが、そのように指示がありました。

代表処とその分室(以下「分処」)は日本に七箇所ありますが、大学の書類を認証してもらう場合、大学のある都道府県を管轄する分処に申請します*4

例えば、神奈川・静岡に大学があれば、横浜分処です。これが愛知になると、大阪分処です。では、富山は? 大阪です。高知は? 大阪です。つまり何か申請しに行くたびに交通費がかかる上、帰ってきてから感染を心配されたりするわけなんですね。文書証明は郵送で手続きをすることもできますが、どのみち後でビザを申請する時には二往復しなければなりません。

申請する分処のサイトから文書証明申請書をダウンロードして記入し、写真付き身分証明書、認証したい書類の原本とコピーを添えて持ち込みます。このとき、分処によっては人の密集を避けるため訪問予約が必要になっていますので注意してください。

持ち込みの場合、申請は10分ほどで終わります。翌日から数えて2日以内にレターパックで返送されます(午前中に行った場合です)。レターパックはライトとプラスを選べますが、プラスをお勧めします。速達扱いになるからです。このレターパック代に加えて手数料1,600円を支払います。

さて、文書証明というのはつまり、このような紙が原本にホチキス止めされることです。

台湾駐日経済文化代表処による文書証明書

台湾駐日経済文化代表処による文書証明書

ホチキス止めされる以上、学位記は使いたくありません。わたしは修了見込証明書を使いました。そしてこの証明書とその下の原本をスキャンして台湾の大学に送りました。すると大学側で台湾の労働局にこれを送り、労働許可を申請するわけです。台湾に送ってから結果が出るまで10日ほどかかります。これが今回の手続きの中で最も時間のかかる部分です。

で、10日経って大学から連絡があり、なんと不許可なんですね。これには理由があります。

わたしは博士後期課程にいるにもかかわらず、修士号を持っていないんですね。五年一貫制博士課程という珍妙なカリキュラムの大学だからです。ですので博士号を取る必要があるのですが、見込みではダメなんですね。労働許可が下りる条件の、「関連する学部・学科の修士以上の学位取得者あるいは(略)学士を取得し2年以上の関連業務経験のある者」を証明できないわけです。

結局、わたしは修了証明書が出るまで、つまり3月末の学位記授与式の日まで待って同じ手続きをしました。これで渡航の予定が大きく狂いましたが、仕方ありませんね。

 

認証された修了証明書をスキャンして台湾に送り、そして大学の近くの家を引き払って実家に戻りました。これにより住所が変わったため、管轄の分処も変わります。10日後に大学からメール、今度は労働許可が下りました。台湾の国立大学なので信用がある、と向こうの人は言っていますが、かかる日数にどれほど影響するのでしょうね。

その2日後に労働許可書の原本が来ました。このようなものです。

台湾労働局による労働許可書

台湾労働局による労働許可書

これを持って、今度は分処でビザを申請します。

労働許可書の他には、パスポート、写真2枚、ビザ申請書を用意します。写真は街中の写真ボックスでよいですが、髪が耳や眉にかからないようにして、眼鏡を外して撮りましょう。

ビザ申請書は各分処のサイトにリンクのあるオンライン登録フォームからPDFで出力し、パスポートと同じ署名をして持っていきます。このとき、最初の注意事項に同意すると、ビザの種類を三種類から選ぶ画面が出ますが、一番左の「General Visa Applications」の「New」を選びます。ForeignなんとかやeVisaなんとかは日本人は対象外です。

オンラインビザ申請画面。日本人はGeneral Visaを選ぶ

ビザ情報登録画面。日本人はGeneral Visaを選ぶ

入力を進めていくと、台湾での滞在先を書く欄がありますが、後から違うホテルに泊まっても報告なしで大丈夫だという回答が分処からありました。台湾に着くとまず14日間は防疫ホテルに泊まるわけですが、一歩も出られないわけですから慎重に選びたいですね。ホテルについては別の記事で書きます。

一般ビザには二種類あり、滞在が180日を超える場合には居留ビザ、そうでない場合には停留ビザを申請します。ここで、わたしは台湾でポスドクを3年やるつもりで居留ビザと入力しましたが、労働許可の期限が年度末までで180日ないことを窓口で指摘され、停留ビザになりました。台湾は新年度が9月から始まります。たぶん、入国してからいろいろと延長手続きをすることになるのでしょう。

コロナの影響がなければ、ここで停留・居留それぞれについて「マルチビザ」を申請できるはずです。これは、台湾に複数回行ったり来たりできるビザですが、2021年4月現在では一回きりのシングルビザしか申請できません。これも、入国してからマルチビザに切り替えます。

注意しなければならないのは、ビザを申請してから発行を待つ間、パスポートを分処に預けたままになることです。そもそもビザというのが、パスポートの適当なページに貼られる大きなシールになっているんですね。他の手続きに支障をきたさないよう、パスポートの番号を控えるか、コピーを取っておくことをお勧めします。

朝イチで分処に行き、窓口で手数料5,300円を払って引換証を渡されます。この引換証には、ビザ付きのパスポートを受け取れるようになれる日時が書いてあります。わたしの場合は4日後の朝でした。再び夜行バスに乗って分処に行き、三十分で新幹線に乗って帰ってきたわけです。ケツ持ちの企業がいないとこういうときに出費が大変ですね。

返ってきたパスポートの中にはビザが貼られていて、このビザには「註記」の欄があります。これがいわゆる特別入国許可になるわけですね。

ビザに付与された特別入国許可

ビザに付与された特別入国許可

コロナの前から台湾にいて、一時的に日本に戻る用事がある日本人とかだと、この特別入国許可の申請は台湾でできるんでしょうか。ちょっと分かりません。

 

停留ビザは発行から3ヶ月有効ですから、この間に台湾に行けばいいわけです。しかし具体的な日取りが決まったら、今度は渡航前の3日以内にPCR検査で陰性を出して、英文の陰性証明書をもらわなければいけません。成田でも羽田でも空港の中にクリニックがあって、検査当日に結果を出してくれますので、まずは予約しましょう。国内で完結する話ですから、労働許可書とかビザに比べれば簡単です。問診票と誓約書をダウンロードして、印刷して書いて持っていきます。

もし陽性が出た場合には、クリニックから航空会社に直接キャンセルの連絡が行きますので、検査を予約する時点で乗る飛行機が確定していなければいけません。

羽田空港第3ターミナルの1階に、東邦大学のクリニックがあります*5。その近くに衝立で臨時の検査室が作られていて、空港のカウンターをPCR検査のための受付として使っていました。ここで問診票と誓約書を渡して、自分の番を待ちます。予約した時間の30分前からは、物を食べたり水を飲んだりしてはいけません。

名前を呼ばれたら衝立の検査室に入って、医師の診察(「体調問題ないですか」「ないです」)、そして漏斗のついたプラスチックの試験管みたいな唾液採取キットを受け取り、選挙の記入台みたいな個室に入ります。

ご丁寧に目の前の壁に梅干しの写真が貼ってあって、「唾液が出にくい場合は顎の下を5~10分ほどマッサージすると必要量が採取できます」とかなんとか書いてあります。線のついているところまで唾液を採取できたら試験管のキャップを閉めて提出し、クリニックの受付(臨時のカウンターではない方)で会計をして検査結果を待ちます。保険適用なしの38,500円です。何時から検査結果を受け取れるかはこのとき教えてくれます。

検査結果は五時間くらいで出ますが、日をまたぐ場合に空港のターミナルで一晩明かすという手は使えません。誓約書にそう書いてあります。空港近くのホテルに泊まるのがよいと思います。わたしは昼過ぎに検査を受けて夜に結果を受け取りましたが、台湾行きの便は翌朝だったため、空港に併設されているホテルに泊まりました。

陰性証明書はこのようなものです。

PCR検査の陰性証明書

PCR検査の陰性証明書

 

これで、紙の書類は全て揃いました。 

しかし、コロナ下の台湾に入国するにはまだ必要なものがあります。それは航空券、オンライン検疫システム登録、そして防疫ホテルです。これらについては、次の記事で紹介したいと思います。 

 

 

※この記事の内容は小説版のこのエピソードに対応します。

 

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