人情温度計 -台湾ポスドク紀行-

ポストコロナの台湾就職録

学歴書類認証~労働許可書~停留ビザ~PCR検査

※この記事の内容は小説版のこのエピソードに対応します。

 

何でしたっけ。

そう、防疫態勢を厳しくしている台湾に就職で行くための、書類を揃えるのでした。

まず、2021年3月時点で、外国人が台湾に渡るには「特別入国許可」付きのビザを取得する必要があります*1。そして、ビザは現在、「商務目的」「訪問学者」「宗教活動」にしか発行されません。留学や語学研修の発行は停止しています*2

わたしの場合、「商務目的」にあたります。「訪問学者」は、すでに日本の大学や企業に所属している人を、台湾の大学が雇用関係なしで一時的に招くものなので、わたしは該当しないんですね。

 

商務目的のビザを取るには、パスポート、写真2枚、ビザ申請書、労働許可書が必要です。

パスポートと写真はいいでしょう。ビザ申請書は、台湾外交部領事局のオンラインフォームで入力して印刷します。問題は労働許可書で、これは台湾の就職先が台湾労働部に申請して、海外から人を招くお伺いを立てて発行してもらうものなんですね。

外国人が台湾で働く場合、外国企業の現地法人なんかの代表者か、台湾でする仕事に関連する業務の経験者である必要があります*3。わたしの場合研究職なので、 修士以上の学位を持っていることを証明する書類があればいいわけです。

そういうわけで、2021年の2月に、内定先の大学の事務から連絡が来ました。パスポート、履歴書、写真、修了証明書をメールで送ってほしい、という内容でした。履歴書というのは日本の履歴書ではなく、自由な書式で自分の業績や認定資格なんかを箇条書きにした書類です。海外ではだいたいこれらしいですね。写真は大学の方で使うので、ビザの写真ほど髪や眼鏡の条件が厳しくありません。

さて、学位記または修了証明書をメールで送るのですが、自分の大学で受け取ったものをそのままスキャンして送っても効力がありません。台湾が日本に置いている台北駐日経済文化代表処で、これを文書証明してもらう必要があります。何の証明をするのか今ひとつ分かりませんが、そのように指示がありました。

代表処とその分室(以下「分処」)は日本に七箇所ありますが、大学の書類を認証してもらう場合、大学のある都道府県を管轄する分処に申請します*4

例えば、神奈川・静岡に大学があれば、横浜分処です。これが愛知になると、大阪分処です。では、富山は? 大阪です。高知は? 大阪です。つまり何か申請しに行くたびに交通費がかかる上、帰ってきてから感染を心配されたりするわけなんですね。文書証明は郵送で手続きをすることもできますが、どのみち後でビザを申請する時には二往復しなければなりません。

申請する分処のサイトから文書証明申請書をダウンロードして記入し、写真付き身分証明書、認証したい書類の原本とコピーを添えて持ち込みます。このとき、分処によっては人の密集を避けるため訪問予約が必要になっていますので注意してください。

持ち込みの場合、申請は10分ほどで終わります。翌日から数えて2日以内にレターパックで返送されます(午前中に行った場合です)。レターパックはライトとプラスを選べますが、プラスをお勧めします。速達扱いになるからです。このレターパック代に加えて手数料1,600円を支払います。

さて、文書証明というのはつまり、このような紙が原本にホチキス止めされることです。

台湾駐日経済文化代表処による文書証明書

台湾駐日経済文化代表処による文書証明書

ホチキス止めされる以上、学位記は使いたくありません。わたしは修了見込証明書を使いました。そしてこの証明書とその下の原本をスキャンして台湾の大学に送りました。すると大学側で台湾の労働局にこれを送り、労働許可を申請するわけです。台湾に送ってから結果が出るまで10日ほどかかります。これが今回の手続きの中で最も時間のかかる部分です。

で、10日経って大学から連絡があり、なんと不許可なんですね。これには理由があります。

わたしは博士後期課程にいるにもかかわらず、修士号を持っていないんですね。五年一貫制博士課程という珍妙なカリキュラムの大学だからです。ですので博士号を取る必要があるのですが、見込みではダメなんですね。労働許可が下りる条件の、「関連する学部・学科の修士以上の学位取得者あるいは(略)学士を取得し2年以上の関連業務経験のある者」を証明できないわけです。

結局、わたしは修了証明書が出るまで、つまり3月末の学位記授与式の日まで待って同じ手続きをしました。これで渡航の予定が大きく狂いましたが、仕方ありませんね。

 

認証された修了証明書をスキャンして台湾に送り、そして大学の近くの家を引き払って実家に戻りました。これにより住所が変わったため、管轄の分処も変わります。10日後に大学からメール、今度は労働許可が下りました。台湾の国立大学なので信用がある、と向こうの人は言っていますが、かかる日数にどれほど影響するのでしょうね。

その2日後に労働許可書の原本が来ました。このようなものです。

台湾労働局による労働許可書

台湾労働局による労働許可書

これを持って、今度は分処でビザを申請します。

労働許可書の他には、パスポート、写真2枚、ビザ申請書を用意します。写真は街中の写真ボックスでよいですが、髪が耳や眉にかからないようにして、眼鏡を外して撮りましょう。

ビザ申請書は各分処のサイトにリンクのあるオンライン登録フォームからPDFで出力し、パスポートと同じ署名をして持っていきます。このとき、最初の注意事項に同意すると、ビザの種類を三種類から選ぶ画面が出ますが、一番左の「General Visa Applications」の「New」を選びます。ForeignなんとかやeVisaなんとかは日本人は対象外です。

オンラインビザ申請画面。日本人はGeneral Visaを選ぶ

ビザ情報登録画面。日本人はGeneral Visaを選ぶ

入力を進めていくと、台湾での滞在先を書く欄がありますが、後から違うホテルに泊まっても報告なしで大丈夫だという回答が分処からありました。台湾に着くとまず14日間は防疫ホテルに泊まるわけですが、一歩も出られないわけですから慎重に選びたいですね。ホテルについては別の記事で書きます。

一般ビザには二種類あり、滞在が180日を超える場合には居留ビザ、そうでない場合には停留ビザを申請します。ここで、わたしは台湾でポスドクを3年やるつもりで居留ビザと入力しましたが、労働許可の期限が年度末までで180日ないことを窓口で指摘され、停留ビザになりました。台湾は新年度が9月から始まります。たぶん、入国してからいろいろと延長手続きをすることになるのでしょう。

コロナの影響がなければ、ここで停留・居留それぞれについて「マルチビザ」を申請できるはずです。これは、台湾に複数回行ったり来たりできるビザですが、2021年4月現在では一回きりのシングルビザしか申請できません。これも、入国してからマルチビザに切り替えます。

注意しなければならないのは、ビザを申請してから発行を待つ間、パスポートを分処に預けたままになることです。そもそもビザというのが、パスポートの適当なページに貼られる大きなシールになっているんですね。他の手続きに支障をきたさないよう、パスポートの番号を控えるか、コピーを取っておくことをお勧めします。

朝イチで分処に行き、窓口で手数料5,300円を払って引換証を渡されます。この引換証には、ビザ付きのパスポートを受け取れるようになれる日時が書いてあります。わたしの場合は4日後の朝でした。再び夜行バスに乗って分処に行き、三十分で新幹線に乗って帰ってきたわけです。ケツ持ちの企業がいないとこういうときに出費が大変ですね。

返ってきたパスポートの中にはビザが貼られていて、このビザには「註記」の欄があります。これがいわゆる特別入国許可になるわけですね。

ビザに付与された特別入国許可

ビザに付与された特別入国許可

コロナの前から台湾にいて、一時的に日本に戻る用事がある日本人とかだと、この特別入国許可の申請は台湾でできるんでしょうか。ちょっと分かりません。

 

停留ビザは発行から3ヶ月有効ですから、この間に台湾に行けばいいわけです。しかし具体的な日取りが決まったら、今度は渡航前の3日以内にPCR検査で陰性を出して、英文の陰性証明書をもらわなければいけません。成田でも羽田でも空港の中にクリニックがあって、検査当日に結果を出してくれますので、まずは予約しましょう。国内で完結する話ですから、労働許可書とかビザに比べれば簡単です。問診票と誓約書をダウンロードして、印刷して書いて持っていきます。

もし陽性が出た場合には、クリニックから航空会社に直接キャンセルの連絡が行きますので、検査を予約する時点で乗る飛行機が確定していなければいけません。

羽田空港第3ターミナルの1階に、東邦大学のクリニックがあります*5。その近くに衝立で臨時の検査室が作られていて、空港のカウンターをPCR検査のための受付として使っていました。ここで問診票と誓約書を渡して、自分の番を待ちます。予約した時間の30分前からは、物を食べたり水を飲んだりしてはいけません。

名前を呼ばれたら衝立の検査室に入って、医師の診察(「体調問題ないですか」「ないです」)、そして漏斗のついたプラスチックの試験管みたいな唾液採取キットを受け取り、選挙の記入台みたいな個室に入ります。

ご丁寧に目の前の壁に梅干しの写真が貼ってあって、「唾液が出にくい場合は顎の下を5~10分ほどマッサージすると必要量が採取できます」とかなんとか書いてあります。線のついているところまで唾液を採取できたら試験管のキャップを閉めて提出し、クリニックの受付(臨時のカウンターではない方)で会計をして検査結果を待ちます。保険適用なしの38,500円です。何時から検査結果を受け取れるかはこのとき教えてくれます。

検査結果は五時間くらいで出ますが、日をまたぐ場合に空港のターミナルで一晩明かすという手は使えません。誓約書にそう書いてあります。空港近くのホテルに泊まるのがよいと思います。わたしは昼過ぎに検査を受けて夜に結果を受け取りましたが、台湾行きの便は翌朝だったため、空港に併設されているホテルに泊まりました。

陰性証明書はこのようなものです。

PCR検査の陰性証明書

PCR検査の陰性証明書

 

これで、紙の書類は全て揃いました。 

しかし、コロナ下の台湾に入国するにはまだ必要なものがあります。それは航空券、オンライン検疫システム登録、そして防疫ホテルです。これらについては、次の記事で紹介したいと思います。 

 

 

※この記事の内容は小説版のこのエピソードに対応します。

 

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