人情温度計 -台湾ポスドク紀行-

ポストコロナの台湾就職録

防疫ホテルの予約~渡航~防疫ホテルに収容

※この記事の内容は小説版のこのエピソードに対応します。

 

台湾に渡航する日取りが決まったら、まず飛行機を予約します。その次に、防疫ホテルを予約します。ホテルに飛行機の便名を伝えるため、この順番になります。

 

飛行機については、特に注意することもないでしょう。欠航や遅延があるとスケジュールが大きく狂うため、わたしはLCCを避けてJALにしました。また、大荷物を持って街中を歩くのは骨が折れますから、自宅から全て空路にしました。地方空港から羽田経由の台北行きです。

ちなみに、国内線の区間と国際線の区間では預け入れ手荷物の規定が違うのですが、両方の区間を一つの予約番号で取ると、国内線区間でも国際線と同じ重さの荷物を預けられるようになります。また、別々に予約するより安くなります。それにしても、通しで30,000円台というのは他に客がいないせいでもあるのでしょうか。

 

より気になるのは防疫ホテルの方です。2021年4月現在、台湾では国籍を問わず全ての入国者に、14日間の完全隔離と7日間の自主健康管理が義務づけられています。14日間の隔離というのは、要するに一歩も外に出ず誰とも会わないようにし、毎日の体調を政府の機関に報告することです。入国の翌日を1日目として14日ですので、15泊必要になります。場所は自宅か政府の許可を受けた防疫ホテルになりますが、自宅でも家族との同居はできません。

わたしは当面の間、就職先の大学の宿舎に住むことになっているのですが、これは自宅とは勝手が違いますし、隔離は受け入れ態勢の整っているところの方がいいだろうと考えて、ホテルを取ることにしました。

台湾に空路で入国すると、空港から政府指定の防疫タクシーで直接ホテルに向かいます。国際空港は台北、桃園、台中、高雄にありますが、今の時期には台北と桃園行きの便しか飛んでいないと思います。台北でホテルを取るのがいいでしょう。

伝聞ですが、都市部を外れたホテルには窓がない部屋も多いといいます。ライフスタイルによっては、14日間窓がないと辛いでしょう。また、部屋の広さも考慮した方がよいと思います。わたしは窓なし四畳半でも大丈夫な気もしましたが、念のため台北で窓のあるホテルを探すことにしました。

交通部観光局のページに、防疫ホテルの一覧があります*1。ここにあるホテルを片っ端から調べるのですが、わたしの場合、防疫ホテルの指定を受けていることをトップページで大々的にアピールしていないホテルはその時点で候補から外すことにしました。本当は来てほしくないが名前を載せるためにとりあえず登録している、という本音が漏れているように思えるからです。

そうすると、台北にあって防疫プランの値段やサービスが親切に書かれているホテルはけっこう絞られます。相場は一泊2000~4000台湾元くらい。日本円で8000~16000円ですが、15泊もあると出費が馬鹿になりません。その上、決済はデポジットで先に全額を払います。ついこの前まで学生だったという場合には、先にクレジットカードの限度額を増額しておいた方がよいかもしれません。

わたしは最終的に、ショッピングエリアである中山区にある「台北馥華商旅 Forward Hotel Taipei」というホテルにしました。相場の範囲で安く、大きな窓があり、防疫プランの情報が充実しているからです*2

Forward Hotel Taipeiトップぺージ

Forward Hotel Taipeiトップぺージ

このとき、わたしが検索した日程では通常料金と「快閃優惠 Flash Sale」の料金があり、さらにそれぞれに三食付きと食事なしのプランがありました。「快閃優惠」は期間限定の安売りセールで(他のホテルにもあったため、政府絡みのキャンペーンだと思います)、通常料金より一泊1000台湾元ほど安くなります。食事については、詳しくは別の記事で書きますが、必要ないと思います。一歩も外に出ないのに一日三食は多すぎで、一日二食をデリバリーで頼む方が安いからです。

オンライン予約フォームで15泊分の料金を払い、ホテルにメールを出しました。泊まる目的が防疫隔離であることと、空港に着くのが午前中になることを伝えるためです。ホテルの担当者には英語が通じますが、時々やや見当違いな回答が来ることがあります。分からない点は根気よく表現を変えながら質問しましょう。わたしは上に書いた「快閃優惠」が外国人の防疫隔離の客にも適用されることをここで確かめました。

オンライン予約フォームを通さず、メールで空室照会から支払いまでを完結させることもできます。その場合、クレジットカード情報を記入する紙がPDFで送られてきますので、署名してスキャンして送り返すことになります。

これで防疫ホテルの予約ができました。もしキャンセルする場合、3日前までにキャンセルするとデポジットが全額返金されますが、3日前を過ぎてからは1泊分が引かれて返金されます。渡航前のPCR検査で陽性が出たり飛行機が欠航になったりした場合には、3日前を過ぎても全額返金されます。

 

4月末、わたしは日本の某都市の空港で、カウンターにビザ付きのパスポートを出しました。ビザに書かれている「SPECIAL ENTRY PERMIT」を確認してもらって、それからオンライン検疫システムに登録します。先に登録しておいた方がよいかもしれません。これはパスポート番号と泊まるホテルを台湾の衛生福利部に送信するものですが、入国する48時間前から登録できるようになります。入力し終わった画面でスクリーンショットを撮るよう指示がありますので、スマホで入力するのがいいでしょう。

つまり、労働許可書→ビザ取得の流れをこなしていなければ、羽田に行く前に止められるということです。

オンライン検疫システムの最終画面

オンライン検疫システムの最終画面

 

さて、羽田です。

羽田空港第3ターミナルの出発フロア。ほとんどのチェックインカウンターが閉まっている

羽田空港第3ターミナルの出発フロア。ほとんどのチェックインカウンターが閉まっている

カートに荷物を乗せて連絡バスで第3ターミナルに移動しますが、見事に人がいません。二か所にあるエスカレーターは片方が封鎖されていますし、チェックインカウンターもほとんど閉まっています。わたしはまずホテルに荷物を預けてお昼にしました。レストラン街も当然ほとんど営業していませんが、かろうじて「銀座 おぐ羅」が開いていました。穴子重の店です。

運転していないエスカレーター

運転していないエスカレーター

羽田空港第3ターミナルのレストラン街の表示。点灯している店は少ない

羽田空港第3ターミナルのレストラン街の表示。点灯している店は少ない

お昼を食べたら、ホテルに荷物を置いて、日本円を台湾元に両替しました。台北の空港に着いてすぐ、SIMカードを買う必要があるからです。しかし、両替は空港ではなく事前に外貨両替ドルユーロか何かでやっておいた方がいいと思います。ドルユーロで1元3.8円くらいのところ、空港の銀行では4.3円くらいでした。

 それから空港内のクリニックにPCR検査を受けに行きましたが、このときの様子は前の記事で紹介しています。5時間待って検査結果を受け取ったら、後はやることはありません。「せたが屋」でラーメンを食べてホテルに戻ります。

電光掲示板の運航予定表を見ると、国際便はほとんど欠航になっています。

国際線の運行予定表。右端の列の黄色が欠航を示す

国際線の運航予定表。右端の列の黄色が欠航を示す

 

台北行きの飛行機は翌日の朝でした。カウンターでチェックインをするときに再度、PCRの陰性証明書を持っているか、オンライン検疫システムには登録したか、防疫ホテルを予約しているか、14日と7日の隔離が必要なことを承知しているか、ということを確認されます。

ところで、ここで少しズルがあるんですが、わたしは学生のときに太平洋と赤道を飛び越えまくったために、JALグローバルクラブの会員になっているんですね。今回、普通の会員が使えるサクララウンジが閉まっていて、ファーストクラスラウンジが使えましたので、その様子もご紹介します。といっても、そう豪勢なものではなく、食事がセットメニューになっているくらいですが。机に貼られたQRコードから注文するのはコロナ対応のはずです。

JAL国際線のファーストクラスラウンジ

JAL国際線のファーストクラスラウンジ

和食セットと寿司

和食セットと寿司

ともあれ、台北行きの便は定刻通り出発しました。

私はエコノミークラスで予約していたのですが、客がいないあまりかプレミアムエコノミーに格上げされており、エコノミーには誰もいないようでした。客室乗務員さんも「大変ですねえ」のようなことを話しかけてくれます。

離陸して一時間ほどで機内食が出ました。ハヤシライス。これが、恐らくは最後の日本食になるのでしょう。

 

台北松山空港というのは台北市の繁華街のすぐ近くにあって、街中にあることにかけては日本の松山空港を上回ります。ハドソン川不時着事故のような雰囲気でビル街の中に下りていき、離陸からだいたい三時間ほどで着陸しました。機内から空港の様子を撮影してはいけないというアナウンスが流れます。軍事機密にあたるからです。

飛行機を降りると長い直線の廊下があります。いの一番に中華電信のSIMカード売り場が待ち構えていて、台湾の電話番号を持っていない人はここでSIMカードを買わなければなりません。有効期間によっていくつかの料金プランがありますが、わたしは180日のデータ通信・399元分の通話で3999元のプランにしました。現金とクレジットカードが使えます。設定は全て係員に任せます。日本語設定のままでも大丈夫です。

設定が終わると、隔離期間が終わるまで設定を変えてはいけない、スマホの電源を切ってはいけないという意味のことを言われます。これは電話やSMSやGPSで、衛生福利部や警察が常に監視することになっているからなんですね。

今度は、日本で登録したオンライン検疫システムの情報のうち、電話番号の部分を台湾の電話番号に変更します。これは係員が廊下の壁際にあるパソコンでやってくれます。ここで登録情報が全て印刷された紙、すなわち検疫通知書が発行されます。

同時に、さっき買った台湾の電話番号あてに、同じ書面がSMSで送られてきます。パスポート番号の下6ケタがパスワードになっていて、検疫通知書を見せるよう要求されたら、紙の代わりにこれを開いて見せてもよいことになっています。

検疫通知書(表)

検疫通知書(表)

検疫通知書(裏)

検疫通知書(裏)

さらに先に進むと、陰性証明書とホテルの予約証明をチェックする係員がいます。ホテルの予約証明については、ネットで予約した時の自動返信メールを見せればよく、到着日から15日間確保しているかを確認されます。

これで長い廊下はおしまいで、ほとんど閉まっている免税店エリアを通り過ぎて入国審査に向かいます。マスクを外して顔写真を撮り、両手の人差し指の指紋を取ります。質問されたのは「体調は大丈夫ですか?」「台湾に来るのは初めてですか?」の二つだけでした。ちなみにですが、英語以外が公用語になっている国では、先手を取って「Hello.」と挨拶をすると英語で話してくれることが多いです。

 

入国審査が終われば 、荷物を受け取って防疫タクシーに乗ります。ベルトコンベアで運ばれてきた荷物が濡れていますが、消毒液でしょう。ロビーに出るとすぐさま防疫タクシーの係員がやってきて、防疫ホテルの住所を書くように求められます。両替などをする暇はありません

荷物とわたしの体がアルコール噴霧器で消毒され、すぐに黄色いタクシーに乗り込みます。住所は紙に書いてあるため運転手と話す必要はないのですが、全く話してはいけないというわけでもなさそうです。わたしは悠遊カード(台湾のSuicaのようなもの)が使えるか中国語で尋ねたのですが、使えないようでした。

 

 空港からホテルまで125元(500円くらい)でした。台湾のタクシーが安いといっても、驚きの近さです。ホテルの裏手に乗りつけ、靴カバーをはめてから館内に入ります。ここでも荷物と体を消毒しますが、あとは自分で部屋に入るように指示されます。

荷物をカートに積んでエレベーターで二階に上がり、伝えられた部屋に入ります。各部屋の前にはキッチンワゴンが置いてあり、日々の食事やレンタル品は全てここに置かれるんですね。部屋で出たゴミは扉の横のトレイに置きます。

防疫ホテルの防疫フロアの廊下

防疫ホテルの防疫フロアの廊下

部屋の内装については、写真を見ていただくのが早いでしょう。14畳ほどの部屋で、十分やっていけるだろうと思わせる広さです。窓が二つあり、ちゃんと開きます。エアコンがかなり効いています。

防疫ホテルの部屋:入口より

防疫ホテルの部屋:入口より

防疫ホテルの部屋の窓からの景色。大通りに面している

防疫ホテルの部屋の窓からの景色。大通りに面している

トイレとシャワー室は広く、バスタブはありません。洗濯用と台所用の洗剤があります。つまり、服や食器は全て自分で洗わなければなりません

防疫ホテルの部屋:洗面所

防疫ホテルの部屋:洗面所

防疫ホテルの部屋:シャワー室

防疫ホテルの部屋:シャワー室

防疫ホテルの洗面所の備品

防疫ホテルの洗面所の備品。石鹸類、洗剤、スポンジ、歯ブラシ、歯磨き粉、剃刀、ドライヤー、箒とちりとり、シャワーマット

入口の左側には机とクローゼットがあります。クローゼットの中には一通りの備品があります。台湾では水道水が飲めないためミネラルウォーターが必要なのですが、このミネラルウォーターはなくなれば補充してくれるようです。

防疫ホテルの机とクローゼット

防疫ホテルの机とクローゼット

防疫ホテルのクローゼットの備品1

防疫ホテルのクローゼットの備品。タオル、ゴミ袋、トイレットペーパー、水のペットボトル24本

防疫ホテルのクローゼットの備品2

防疫ホテルのクローゼットの備品。湯沸かしポット、コップ、ステンレスの食器、お茶やコーヒーのパック

机の上には書類が置かれています。まずはホテル側と連絡を取れるようにするために、チャットアプリで友だち登録をして(What'sAppとLINEとWeChatがあります)、名前と部屋番号を伝えます。その後、二枚組の「居家検疫規範切結書」にサインをし、パスポートと検疫通知書の写真と一緒に送ります。右から二番目にあるのは毎日の体温と体調を記録する用紙で、毎日写真を撮って送ることになります。

衛生管理の注意書き、宣誓書、体調記録用紙、チャットアプリのQRコード

衛生管理の注意書き、宣誓書、体調記録用紙、チャットアプリのQRコード

 

さて、ようやく入国することができました。まずはこの部屋から一歩も出ることなく、15日間過ごさなければなりません。結果から言えばそう悪いものでもなかったのですが、その模様は今後の記事で紹介します。

 

 

(前の記事)学歴認証書類~労働許可書~停留ビザ~PCR検査

(次に書く記事)防疫ホテル0日目~2日目

 

※この記事の内容は小説版のこのエピソードに対応します。