防疫ホテル0日目~2日目
(これまでのあらすじ)2021年4月末、わたしは就職のために台湾にやってきました。折しも新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大している時節、世界に先駆けて構築された厳しい水際対策のただ中にです。そして空港直送の防疫タクシーで向かった先は、15日間一歩も出ることのできない防疫ホテルの防疫隔離部屋でした……
0日目
0日目、というのは防疫ホテルに着いた日のことを指します。よく14日の隔離と言われている数字には、到着日は含まれないんですね。
部屋に入ってすぐに、机の上に置かれている資料を確認します。そこには指示や注意事項が事細かく書かれています。最初にやるのは、ホテルのフロントとメッセージアプリで連絡を取れるようにすること、そしていくつかの書類の写真を撮って送ること。パスポート、検疫通知書、隔離の同意書にサインしたやつを送ります。
それから、「朝食のときの飲み物は何がいい?」という質問が来ます。コーヒー、牛乳、ジュースがある中で、わたしはジュースにしました*1。今後は毎日ジュースが来ますが、途中で変えることもできます。
着いたのが昼の1時ごろでしたので、ほどなくして昼食が来ました。部屋の前のキッチンワゴンに、知らぬ間に置かれています。このように。
廊下に足を踏み出さないように気をつけながら、こうした弁当を取って机で食べるわけです。記念すべき最初の食事はこんな感じです。
味の方は、鶏肉は甘い、他はだいたい辛い、そんな感じです。日本の料理のように出汁というものはありませんが、悪くはありません。ですが、セットになっている冬瓜のスープ、これはいけない。皆さんは小さいころに火遊びで発泡スチロールを燃やしたことがおありで? そういう味がします。わたしは出された食事は全部食べることにしているので、まあ飲むんですけども。
このホテルはフロアごとにwi-fiが飛んでいるので、机でパソコンを出して仕事をすることもできます。就職先に一報入れて、何かパイソン・コオドでも書こうとするんですが、いや、ダメですね。せっかくの広い部屋をまずは謳歌したい。キングサイズのベッドでごろごろしている間に夜です。
夕方の6時ごろになると夕食が来ます。今度はホテルからメッセージがありました。以後、食事が来る前か後に毎回知らせてくれるようになります。
夕食はこんな感じです。
焼き魚というより、これ蒸してあるような気もするんですが、分かりません。どうやら米の上に肉か魚を乗せるのが台湾の主食らしいと思い始めてくるころです。乗せる物によっては米がふやける。今がそうです。発泡スチロール風味のスープと合わせて頂きます。
ただ……味はいいとして、昼から何も動いてないのに夕飯を食べるのはちょっとしんどいんですね。朝と夜だけでいいような気がしてきます。滞在中の注意事項には「食事つきのプランで食事の一部をキャンセルした場合でもその分は払い戻しされない」というようなことが書いてありますので、つまりキャンセルはホテル側の想定内ということです。明日相談してみましょう。
食べ終わった後の弁当の容器は、部屋にあるゴミ袋に入れておいて、いっぱいになったら部屋の外のトレイに出すと昼の3時ごろに回収されるそうです。
シャワーを浴びるのが面倒だったので、この日はそのまま寝ました。どうにも張り合いのない台湾初日です。
1日目
朝は8時に朝食が来ます。しかし食べる前に、まずは体調のチェックをしなければいけません。机の上に消毒用アルコールなんかと一緒にデジタル体温計があって、それで体温を測ります。35度7分。わたしは普段からこのくらいです。37度5分を超えるとまずいらしいんですね。
この体温計の数字は写真に撮ってチャットアプリでホテルに送らなければいけませんので、体調記録表と一緒に撮ります。体調記録表には体温、鼻水鼻づまり、咳、呼吸困難、全身倦怠、筋力、すぐ診察が必要かどうかを記入する欄があって、それが15日分並んでいます。
体調記録表と体温計の写真をホテルに送ると、すぐにスタンプが一つ返ってきました。フレンドリーですね。
ついでに、今日の昼食がいらないということも伝えておきました。予約するときにメールでやりとりした感覚からすると、向こうはあまり複雑な英語はよく分かってくれないので、どういう言い方にするといいのか、やや悩みます。
さて、朝食です。
台湾では、どうやらトマトは果物の部類に入るようですね。グァバは梨に似ていますがもっとあっさりしていて、果汁もほとんどありません。サンドイッチの具はレタスとシーチキンでした。ちなみに箸はステンレスですので、金属の刺激が気になる方がいるかもしれませんね。わたしは気になりました。
この日は月曜日ですので、仕事らしきものをしなければなりません。何しろ日割り計算で給料が発生しているというんですね。パイソン・コオドを書きましょう。
……ダメです。何もやる気が起こりません。物理学者というのは人前に出る機会がなければ服に頓着するということをしないので、わたしもわざわざ寝巻から着替えたりはしないわけですけれども、これはテレワークと相性が悪いことが知られています*2。気分が乗ってくるまで、もう少し広い部屋を満喫しましょう。
昼の11時ごろに、突然中華電信の電話番号にSMSが来ました。台湾政府の衛生福利部疾病管制室(CECC)からです。ここでも体調チェックをするそうです。健康なら1、コロナらしき症状があれば2、その他の体調不良は3を送信すると、自動で返信が来ます。「I'm 1.」「1.」など、他の記号や文字が入っているとエラーメッセージが来ますので、数字のみを送ります。
12時に配膳のメッセージは来ず、少しドアを開けてみても弁当の姿はありませんでした。昼食がいらないと言ったのが通じたようです。
仕事は億劫なので、中国語の勉強をすることにしました。わたしは『今日からはじめる台湾華語』*3という本を持ってきています。中国語は発音が難しいとはよく言われますが、カタカナに頼らず四声込みのピンインか注音で単語を覚えていけば恐れることはない気がしますね。
夕方の4時ごろに、今度は電話がかかってきました。近くにある中山警察署からで、日本語で話しています。この14日間、同じ担当者が不定期に電話で体調確認をすること、携帯電話の電源を切ってはいけないことを再度伝えられました。つまり、ホテルがチャットアプリで、疾病管制署がSMSで、警察が電話で、それぞれ入国者の体調をチェックするということです。
有無を言わさぬ監視システムですが、行政とか企業とかに対してよほど信頼があるんでしょうか。例えば集めた個人情報から勝手に信用を数値化して売り買いしないとか、監視の範囲をどんどん広げてインターネットを検閲し始めたりしないとか。
夜の6時にはまた夕食です。温かい麺が来ました。これはいいですね。箸が金属でなければなおいい。麺をスープに入れて食べます。
この日はシャワーを浴びました。水がお湯になるまでにかなり時間がかかりますが、まあいいでしょう。シャンプー、ボディソープ、ハンドソープは用意されています。エアコンはつけていますし一歩も外に出ないので、毎日シャワーを浴びる必要もないかもしれませんね。
2日目
この日は昼になるまで寝ていて、昼食をキャンセルするのを忘れたので、12時に昼食が来ました。直前にいらないと言われても向こうも困るでしょうからね。
夕方に日本の研究者と少し電話会議をします。そして、夜になりました。
どうやら、弁当の出所の店はいくつかあるようです。今日の食事は文句ないですね。夕食の弁当箱の蓋に「隔餐請勿食用」、つまり間食をするなというようなことが印刷されています。
今日の台湾華語
隔 餐 請 勿 食 用。
gé cān qǐn wù shí yòng.
ㄍㄜˊ ㄘㄢ ㄑㄧㄥˇ ㄨˋ ㄕˊ ㄩㄥˋ
食事の間に(これを)食べないでください。
しかし、この調子だと紹介することが毎日の食事しかなくなってしまいますね。それでもいいのかもしれません。隔離とはそういうことですから。あと13日分は台湾の弁当食レポということにしましょう。
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