防疫ホテル11日目~14日目
防疫隔離期間の終わりが近づいてきました。
11日目
朝食です。これは何でしょう。どうやらこれは蛋餅(dàn bǐng、ㄉㄢˋ ㄅㄧㄥˇ)といって、もちもちしたクレープ生地のようなものに玉子やハムを巻いて焼いてあるんですね。なかなかおいしいです。
午前中に、勤務先の人が新しい実験装置のアイデアを思いついたという話を持ちかけてきたので、それについて「計算してみるとやっぱりうまくいかないんじゃないか」というような話をしていました。上司であっても物理的に懸念のあるところは遠慮なく指摘していいのが物理学のいいところですが*1、これはもしかすると物理の中でも浮世離れした分野だけの特権なのかもしれません。
昼食も十二時前に来ます。
昼食の後に、デザートとしてお汁粉が来ました。言うなればこれは「こしあん」で、わたしはつぶあんのお汁粉の方が好きなのですが、まあいいとしましょう。白玉などの具はなく、あまり甘くもありません。
今日も今日とて、UberEatsで豆花を注文します。「豆花荘」の総合肆號、これは紅豆、芋圓、黒心白玉(中に黒ごまが入っている白玉です)のトッピングがあらかじめセットになっている豆花です。72元でそのうち2元が袋代。台湾ではビニール袋やストローは有料の店が多いようです。
午後には勤務先と臨時のミーティングを開いて、メンバーに今やっている研究を紹介してもらいました。業界独特の使い方をする単語や略号が多いため、いちいち質問しながらになるのですが、これから小グループを形式上まとめることになる立場としては、各自の研究テーマを一言で表現する言葉と、プロジェクト全体との関係が何となく分かったことで十分としましょう。直接人と会わず装置も見たことのない現状では理解できることにも限界があると思います。
そして、夜になりました。
来ました、パイナップルです。そしてうどん。当たりの組み合わせです。
……おっと、スープに虫が入っていました。取り除いて飲みます。台湾ではマラリアも根絶されていますし、この程度のことで騒いでいては外国では生きていけません。むしろこういういい加減なところがあって初めて、外国に来たことを実感できるというものです。何しろここはウイルス一つ入れない、都心の隔離ホテルの一室ですからね。
12日目
朝食です。サンドイッチの容器に「法式」とあるのはフランス式のことで、要するにフレンチトーストのようにパンに味がついているんですね。
この日、日本から持ってきていた台湾華語の本*2を読み終えました。会話の例文や言い回しの話ばかりで、文法らしい文法が解説されていないのが気になります。英語と同じとはよく言われますが、全く同じでもないでしょう。
例えば疑問文では、「這是什麼?(zhè shì shén me、ㄓㄜˋ ㄕˋ ㄕㄣˊ ㄇㄜ˙、これは何ですか?)」を例にすれば、「ここ」と「何」の順番は英語と逆になっています。
また、「着いたら連絡してください」と言う時に「到的時候(到着する時、dào de shí hòu、ㄉㄠˋ ㄉㄜ˙ ㄕˊ ㄏㄡˋ)」と言うように、関係副詞から関係副詞節を始めるということもないようです。関係副詞節自体も、英語のように文の後ろに置かれるのではなく、日本語のように文頭に来ます。ofにあたるものも見当たらず、一言で言えば、後置修飾というものがないように見えます。
平叙文は英語と同じ語順だとしても、疑問文や複文の作り方は日本語に近いと思った方がいいのかもしれません。あるいは、疑問文や複文でもSVの語順を保つ、ということになるでしょうか。
昼食をキャンセルして、夕食です。この日は本を読み終えた後寝ていたので、スイーツも注文しませんでした。
13日目
この日も計算をしたりメールを書いたりしていました*3。これから研究で使おうとしている素材について、日本の会社に相見積もりを取るのですが、使える予算を把握していない身で高い特注品の相談をするのはどうにも不安がありますね。
明日はチェックアウトの日ですので、ホテルから退出時の注意事項がチャットで送られてきます。出発時間を12時までで教えてほしい、窓を開けてドアを閉めておくこと、マスクと靴カバーをしてフロントに来て領収書を受け取ること、借りたLANケーブルをその際に返すこと、それからいくつかの消耗品は持ち帰ってもいいそうです。持ち帰れるのは、体温計、衣服用と食器用の洗剤、スリッパ、小さい箒とちりとりのセット、布巾、そしてシャンプーとリンスとボディーソープです。スリッパと箒とちりとり以外は頂くことにしましょう。
ついでに、荷物がたくさんあるため、ホテルにタクシーを呼んでもらうことにしました。12時に乗車することにして、行き先を伝えると料金を教えてくれます。台北から桃園市中壢區まで1500台湾元(6000円くらい)、直線距離で30キロほどを高速を使って移動することを考えれば安い方ではないでしょうか。
せっかくの最終日なので、ホテルの食事もキャンセルしないことにします。
そして、出前も注文しました。杏仁豆腐専門店の杏仁豆腐ドリンク(70元)で、なつめと白きくらげが入っています。白きくらげは杏仁豆腐と合わせるには少し触感が柔らかすぎる気もします。
と思ったら、デザートも来ました。これも白きくらげです。温かいシロップに漬かっています。
夕食です。スープは最後まで炙りビニールの味でしたね。どうも紙容器の表面のコーティングが溶け出しているのではないかと思うのですが、真相は最後まで分かりませんでした。
ずっと部屋にいると汗をかかないので、シャワーは二日半に一回ほどだったのですが、毎日同じ時間にシャワーを浴びて服も着替えた方が仕事は進んだかもしれません。2020年の時点で分かっていたことですが、なかなか上手くはいかない。せめてこの日は早く寝ることにします。
14日目
最後の食事です。
窓際に干していた洗濯物を取り込んで、荷物をまとめて12時前に部屋を出ました。来た時は裏口から入ったためロビーの様子は分かりませんでしたが、ロビーもテープや看板で隔離用の動線と一般客用の動線が分けられています。
フロントで領収書を受け取ると、外にはもうタクシーが来ていました。トランクに大荷物を積み込みます。行き先は伝えてありますが、自分でも喋ってみます。……大学名の一言だけですが、「あ!?」と聞き返されました。二回目で通じたものの、本で勉強しただけでは発音にまだ難があるようです。ㄓか、あるいは四声でしょうか。
ともあれ、15日間の防疫隔離期間はこれにて終わりです。部屋が広かったためか性格のためか、一歩も外に出なくても特に不自由はしませんでした。
しかし、台湾の水際戦略はこれで終わったわけではありません。ホテルでの厳重な隔離の後、さらに自宅での「自主健康管理」があります。これは完全な外出禁止ではないものの、7日間にわたって人の多いところを避け、食事も飲食店の中ではなく全て持ち帰りにしなければならないというものです。勤務先の研究室にも行けないのですが、出歩けるならまだ楽しみもあるでしょう*4。
次の記事ではたぶん、自主健康管理期間のことについて少し書きます。それ以降のことは、何かテーマごとに不定期に書いていきたいと思います。
今日の台湾華語
這 是 什 麼 ? - 火 腿 蛋 餅 。
zhè shì shén me ? - huǒ tǔi dàn bǐng .
ㄓㄜˋ ㄕˋ ㄕㄣˊ ㄇㄜ˙ ? - ㄏㄨㄛˇ ㄊㄨㄟˇ ㄉㄢˋ ㄅㄧㄥˇ 。(これは何ですか? - ハムの蛋餅です。)
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