防疫ホテル7日目~10日目
14日間の防疫隔離も折り返しです。
7日目
わたしは元々朝食を食べる習慣がなかったのですが、昼の弁当をキャンセルして朝食の分を昼に食べるとちょうどいいので、隔離期間の前半は大体そうしていました。それが、おやつの注文に味をしめたことでやや変化を迎えています。
この日も夕食をキャンセルして、甘いものを頼むことにします。前日は豆花にしたので、今日は違うものにしましょう。「徐杯杯粉圓仙草」の仙草ゼリーにしました。仙草というのはシソ科の植物で、体の熱を取り除く働きがあるということになっています。これも豆花と同じように、上に乗せるトッピングを選べるんですね。
わたしが注文したのは牛奶芋圓雙寶、つまり仙草ゼリーに牛乳をかけて、芋圓が入り、その上にさらに二種類のトッピングを選べるというやつです。雙が双にあたるわけですね。地瓜圓(サツマイモの団子)と紅豆(小豆)にしました。配送料込みで105台湾元。代表的なトッピングの呼び名は前の記事をご覧ください。
黒いのが仙草ゼリーです。少し苦みがあって美味しい。あるとき熊野新宮で食べた烏薬ゼリーに似ています。しかしわたしとしては、主役の仙草ゼリーよりも芋圓の方が気に入っていますね。
と思っていると、キャンセルしたはずのホテルの夕食が来ました。まあそういうこともあるでしょう。
さらに、この日は勤務先の人が近くまで来ていて、何か欲しいものはないかと聞かれました。つまり、ホテルを介して差し入れができるんですね。何だかんだで台湾ビールを持ってきてもらえることになりました。LANケーブルの貸し出しや食事のデリバリーと同じように、部屋のチャイムが鳴ってドアの前のワゴンに置かれます。
飲み比べてみましたが、どちらかといえばクラシックの方がわたしの好みですね。
8日目
この日は、デザートではなく食事を注文してみることにしました。ここまでfoodpandaを二回使っているので、もう一つの方、UberEatsで探します。foodpandaの方が登録されているお店の数は多いのですが、UberEatsにしかないお店もあります。例えば、台北にある小籠包の有名店、常に二時間待ちの行列ができているという「鼎泰豐(dǐng tài fēng、ㄉㄧㄥˇ ㄊㄞˋ ㄈㄥ)」がそれです。
今は観光客がいないこともあって、デリバリーで普通に食べられるんですね。見聞を広めるために、注文してみましょう。中の具が牛肉や海老などいくつかありますが、基本の豚肉にします。おかずの小菜もつけましょう。何かのキャンペーンで配送料が無料になっているので、合計290台湾元です。
UberEatsは注文した後の通知がかなり細かく来ます。ドライバーが今どこにいるか、地図で確認することもできるんですね。心なしか日本より位置情報の精度がいい気がします。そういえばわたしのスマホも隔離期間中の位置情報を政府に監視されているのでした。毎日11時にはSMSが来て、体調に問題がなければ1を押すというのを欠かさずやっています。
また、台湾のUberEatsはバイクで来ます。ホテルから窓の下の道路を見ているだけでもしょっちゅうバイクが通ります。が、台湾に来る前に聞いていたような「バイク地獄」というほどのものはここまで見ていません。
わたしの部屋に料理が来る前に「配達が完了しました」と表示されて、ドライバーにチップを贈れるボタンが出ました。5%から20%くらいまで選べるのですが、わたしはお雇い外国人の身で外にも出ず贅沢をしている自覚があるので、5%を贈っておきました。
届いたのがこれです。
薄皮の小籠包が10個。醤油はいらないと伝えたので酢と生姜だけがついています。小菜はきくらげと春雨と鶏肉の酢の物。
さっそくいただきましょう。ついてきた紙製のれんげに小籠包を一つ乗せて、まずは箸でつついて中のスープを出します。ただの醤油と油ではない、丁寧な味付けを感じますね。小籠包の本体も柔らかく、香味野菜の風味がある。小菜の酸味との相性もよいです。ちょうどビールもあります。
……一つ残念なのは、食べているうちに冷めてきて中のスープが固まってくることなんですね。五個目にもなると箸で穴を開けてもスープが出ません。これはお店で食べる時に期待しましょう。
夕方になって、外からぴろぴろした音楽*1が聞こえてきました。外を見ると、ホテルの前の道路に二台のゴミ収集車が停まって、そこにゴミ袋を持って集まっている人たちがいます。聞くところによると、台湾にはゴミの収集場所というものがなく、こうやって巡回してくるゴミ収集車に直接入れるということです。大きなバケツが出ているのは生ゴミ用でしょう。
一日の回収はこれで終わりではなく、夜の10時ごろにまた同じ音楽でやってきました。
夕方まで中国語の勉強をして、夕食はいつも通りホテルの用意した弁当です。
9日目
台湾にはモスバーガーもあります。
昼食をキャンセルして、中国語の勉強をします。わたしは文字を覚えることに関しては物理より自信があるので、この頃には台湾華語の「ふりがな」にあたるものを覚えました。ㄉとかいうやつがそれで、注音(ちゅういん)といいます。アルファベットのように母音と子音があります。漢字は見ただけでは発音が分かりませんが、台湾の子供向けの本なんかにはこの注音が一緒に書いてあって、それで漢字の読みを覚えるというんですね。
夕方になって、また何かデリバリーで頼むことにします。今日はfoodpandaに登録されている、(75元)です。トッピングは薏仁と花生と芋圓。何だか前と変わり映えしませんが、わたしは豆漿と芋圓が気に入ったので、しばらくこんな感じの注文になると思います。
夕食は、初めて皮で包んだ料理が出ました。前日にわたしが小籠包を頼んだのを見てのことでしょうか。たぶんそうではないはずです。冬瓜のスープは焼きビニールの味がしますが、蒸し餃子は非常においしいですね。
夕食の後で、勤務先の学生が博士課程に進学するための面接を受けるというので、その発表練習に付き合いました。台湾の大学の博士課程は日本より厳しく、一年目で研究の方向性や成果について審査があり、落ちるとそこで退学になるというんですね。これはアメリカに倣ったやり方で、博士課程で研究をする素質のない学生を早めに追い返すのはむしろ慈悲の行いであるという人もいます*2。
わたしが採用されるくらいですから、勤務先の研究室は中国語ではなく英語ですべての活動をします。当の学生の面接練習も英語でしました。内容についてはわたしのよく知らないこともありますが、発表のテクニックとして、スライドに貼った図のどこに注目してほしいか、どういうメッセージを読み取ってほしいかを簡潔に文で書き入れてはどうか、というアドバイスをしました。日本で何の気なしにやっていたことが役に立って、少し驚きます。
10日目
学生がいる研究室では大体どこでもそうだと思うのですが、文献紹介またはジャーナル・クラブといって、定期的に誰かが興味のある論文を読んできて内容を発表する会がわたしの勤務先にもあります。
わたしは四月からこの文献紹介の会の幹事を任されているので、次の週の担当の学生に進み具合を聞いたり、場合によっては論文をこちらで探してあげたりする必要があります。まだarXiv*3を見る習慣のない学生や、見つけた論文が自分の役に立ちそうかどうか判断するための自分なりの基準を持っていない学生もいるからです。
この日は次の4週分くらいの学生に薦めてみる論文を探しました。学生たちが今やっている研究に関係なくはないけれどもちょっと中心を外している、という感じの論文をキーワード検索して、あまり長くないやつを選んで、要旨を流し読みして面白そうならダウンロードしておきます。ちょっと中心を外すのは見聞を広げてもらうためですが、もちろん発表を聞く方の学生やわたしもこの恩恵を受けられます。
さて、夕食に何か注文しようと思います。ずっと小籠包では芸がないので、台湾の定番メニューといわれる鷄肉飯(jī ròu fàn、ㄐㄧ ㄖㄡˋ ㄈㄢˋ)がいいでしょう。鶏のむね肉をほぐしたやつをご飯に乗せて、甘いたれがかかっているはずです。豚肉で作る魯肉飯(lǔ ròu fàn、ㄌㄨˇ ㄖㄡˋ ㄈㄢˋ)の方が有名かもしれませんが、今はあっさりしたものが食べたい気分です。
foodpandaで見ると、巷仔内・程家魯肉飯という店に、鷄肉飯、魯肉飯、そして鷄と豚の両方が乗っているであろう鷄魯飯がありました。どうせなら両方食べられるやつにしましょう。鷄魯飯は50元で、これだけ頼むのは何か申し訳ない気がします。おかずも何か台湾ならではの料理を試してみようと思いまして、麻辣豬血(má là zhū xiě、ㄇㄚˊ ㄌㄚˋ ㄓㄨ ㄒㄧㄝˇ、55元)をつけました。配送料はこれらに加えて35元です。
三十分ほどで届きました。ご飯は紙の弁当箱に入っていて、そこに蒸し鶏のほぐしたやつと豚の角煮を細かく刻んだやつが乗っています。これはまったく見た目から想像できる通りのおいしさです。
麻辣豬血の豬とは豚であり、つまり麻辣豬血とは豚の血を豆腐くらいの柔らかさに固めたものがゴロゴロ入っている辛いスープです。豚の血と聞くと衛生的に大丈夫なのかと思いますが、台湾では当たり前に使う食材で、加熱してあれば大丈夫らしいんですね。たぶん。
豬血は一つがサイコロステーキくらいの大きさで、赤茶色をしていて、断面も豆腐のように固まっています。食べてみると、あからさまな血の味がするというわけでもなく、レバーとも少し違いますし、なんとも血らしさのない料理です。しかしまずくはありません。他の具はキャベツで、スープ自体もおいしい。体が温まるような気がしますね。
防疫ホテルでの生活も残りわずかになってきました。あとの4日間も、おそらく配達グルメをあれこれ試しているうちに過ぎるでしょう。
今日の台湾華語
鼎 泰 豐 豬 肉 小 籠 包 還 有 小 菜
dǐng tài fēng zhū ròu xiǎo lóng bāo hái yǒu xiǎo cài
ㄉㄧㄥˇ ㄊㄞˋ ㄈㄥ ㄓㄨ ㄖㄡˋ ㄒㄧㄠˇ ㄌㄨㄥˊ ㄅㄠ ㄏㄞˊ ㄧㄡˇ ㄒㄧㄠˇ ㄘㄞˋ(鼎泰豐の豚肉小籠包、そしておかず)
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